トポイソメラーゼ1阻害薬の治療効果を決定する重要な分子メカニズムを発見
2023/09/08
文:がん+編集部
トポイソメラーゼ1阻害薬の治療効果を決定する重要な分子メカニズムが発見されました。
TDP2によるDNA修復の阻害を併せることで、TOP1阻害薬治療がより高い効果を得られる可能性
広島大学は2023年8月22日、トポイソメラーゼ1阻害薬の治療効果を決定する重要な分子メカニズムを発見したことを発表しました。同大学大学院統合生命科学研究科の清水直登助教、井出博名誉教授、国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部の津田雅貴室長らの研究グループによるものです。
トポイソメラーゼ1(TOP1)は、複製や転写の際に生じるDNAのからまりをほどく酵素です。TOP1阻害薬「カンプトテシン」は、TOP1をDNAに捕捉することで、細胞死を誘導するDNA損傷を引き起こします。これまでに行われた研究から、「チロシル-DNAホスホジエステラーゼ1(TDP1)」や「チロシル-DNAホスホジエステラーゼ2(TDP2)」という酵素は、カンプトテシンが誘発するDNA損傷を修復することが示されていました。しかし、TDP2による、DNA損傷の修復機構は不明でした。
研究グループは、TDP2がカンプトテシンによって誘発されたDNA損傷を修復する際に、TDP2の「152番目のグルタミン酸」を介して「Mg2+」と「DNAの3’末端」が結合し、「262番目のアスパラギン酸」によって活性化された水分子が、DNAの3’末端を修復するための加水分解に関与するDNA修復メカニズムを解明しました。
これらのことから、TDP2によるDNA修復を阻害する医薬品とTOP1阻害薬を併用することで、従来の治療法より高い治療効果を得られる可能性が示唆されました。
研究グループは今後の展開として、次のように述べています。
「本研究が明らかにしたTDP2によるDNA修復機構は、新たながん治療法開発の糸口になります。今後、抗がん剤の開発を行うにあたって、TDP2とMg2+の結合箇所は非常に良い標的になると考えられます。本研究の成果は、新しい医療や医薬品開発などの応用に結びつけられると期待できます」