腎臓がんの治療標的となる新たながん抗原を発見
2023/09/11
文:がん+編集部
腎臓がん細胞において、ヒト内在性レトロウイルス(hERV)に由来するがん抗原が発見されました。hERVがん抗原は腎臓がんに対する新たな治療標的となる可能性があります。
免疫治療効果のバイオマーカーやがん予防ワクチンなどの治療標的としても応用できる可能性
札幌医科大学は2023年8月23日、腎臓がん細胞にhERVに由来するがん抗原を発見したことを発表しました。同大学医学部病理学第一講座の金関貴幸講師、鳥越俊彦教授、腎泌尿器外科学講座の小林進助教、柿崎秀宏教授らの研究グループによるものです。
腎臓がんでは、がん細胞を攻撃するT細胞の目印となる「がん抗原」が、どのようなものなのかがよくわかっていませんでした。
研究グループは、次世代シーケンサーを用いた独自のパイプラインを開発し、hERV遺伝子など従来技術では解読できなかった遺伝子領域に由来する抗原ペプチドの解析を実現。腎臓がんの腫瘍と正常組織を探索したところ、hERV遺伝子に由来する抗原がHLA提示されていることがわかりました。さらに、正常ではなくがん組織に偏って存在するhERV抗原を発見し、同時に、腎臓がん患者さんでは腫瘍内にhERV抗原に反応するT細胞が集まっていることも確認されました。また、このhERV抗原は健常人の血液中のT細胞を刺激することもわかりました。これらのことから、hERVは腎臓がんの新たな「がん抗原」であると考えられます。
研究グループは展望として、次のように述べています。
「がん予防ワクチンなどの治療標的としても応用可能であると考えています。また、hERVがん抗原は腎がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の新しいバイオマーカーとなる可能性があると考えています。現在、成果を実用化するための取り組みがすすんでいます」