がん病巣に放射性医薬品を集積させつつ健常組織での薬の停滞時間を短縮させる新技術を開発

2023/11/20

文:がん+編集部

 がん病巣に放射性医薬品を十分に集積させると同時に、健常組織への薬の停滞時間を大きく短縮させる新たな技術を開発。がん病巣だけに薬を集中させることで、がん病巣への薬の作用を従来よりも飛躍的に改善させることに成功しました。

難治性がん画像診断の精度向上、健常組織への毒性低減、治療効果向上に期待

 国立がん研究センターは2023年10月17日、放射性医薬品を用いる核医学に薬物送達システムと錯体化学を組み合わせることで、健常組織に分布した薬を迅速に体外に排出させる新たな手法を開発したことを発表しました。同研究センター先端医療開発センター機能診断開発分野の梅田泉研究員、藤井博史研究員、千葉大学大学院薬学研究院、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構、京都医療科学大学らの研究グループによるものです。

 放射性医薬品を用いた核医学がん画像診断・がん治療では、放射性同位元素を医薬品として体に投与し、がん病巣に集め、放出される放射線でがんの画像診断を行いつつ、がん細胞の増殖をピンポイントで抑える治療を行います。核医学治療では、がん病巣に薬を集中させると同時に、健常組織への集積を最小限に抑えることが重要ですが、この2つの両立は難しい課題でした。

 研究グループは、核医学で用いる放射性同位元素の大半が金属イオンであることに注目。核医学と薬物伝達システム、錯体化学を組み合わせることで、健常組織を守りつつ、がん病巣に的確に放射性医薬品を集中させる新たな技術を開発しました。

 今回開発されたのは、「111In-エチレンジシステイン」という独自の錯体で標識した放射性同位元素をリポソームに封入した放射性医薬品です。がん病巣への高い集積を保ったまま、肝臓などの健常組織では一旦取り込まれるものの、速やかに消失して尿として体外に排泄され、結果としてがん病巣のみに放射性同位元素を集中させることが、胆がんマウスによる実験で確認されました。今回の研究成果によって、難治性がん画像診断の精度向上、健常組織への毒性低減、治療効果向上などにつながることが期待されます。

 研究グループは展望として、次のように述べています。

 「今後は、健常臓器への分布を避けるだけではなく、分布してしまった薬を迅速に排出させ、がん病巣には薬を留めるという新たな発想で薬剤開発を進めることで、これまでになかったがん病巣だけに留まる薬の開発が期待されます。特に最近では、α線放出核種などのアイソトープを利用したがん治療薬が精力的に開発されており、薬をがん病巣のみへ長く留めることの重要性がより増してきています。このタイミングで、健常組織を保護しつつ、かつ薬のがん病巣への集中を保持するための新しい視点での薬剤開発の手法が拓かれたことは、将来的に高精度がん診療(セラノスティクス)が難治性がん診療に果たす役割を考える上で、非常に重要な意味を持つと考えられます」