ALK/ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対するALK/ROS1阻害薬の薬剤耐性が起こる新規メカニズム発見
2023/12/18
文:がん+編集部
ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対する、ALK阻害薬やROS1阻害薬の薬剤耐性が起こる新たなメカニズムが発見されました。
MIG6の欠損によるALK/ROS1阻害薬の薬剤耐性、抗EGFR抗体薬とALK阻害薬またはROS1阻害薬の併用で克服できる可能性
がん研究会は2023年11月6日、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの患者さんから樹立したがん細胞株を用いて、ALK阻害薬に対する薬剤抵抗性メカニズムを解析し、MIG6の欠損が関与していることを明らかにしたことを発表しました。同研究会がん化学療法センター基礎研究部の片山量平部長、同研究部所属、東京医科歯科大学医歯学総合研究科博士課程の近藤信幸大学院生らの研究グループによるものです。
ALKおよびROS1融合遺伝子は非小細胞肺がん患者さんのそれぞれ約4%、1%で認められ、多くは分子標的薬であるALK、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬により高い治療効果が認められます。しかし、数年以内に薬剤耐性が起こり、再増悪してしまうことが問題となっています。
研究グループは、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの患者さんから樹立したがん細胞株を用いて、ALK阻害薬に対する薬剤抵抗性メカニズムを解析。「NF2」や「MED12」という既知のがん抑制遺伝子に加えて、新たに「ERRFI1」遺伝子の同定に成功しました。ERRFI1遺伝子は、EGFRに結合しその活性を負に制御することが知られる「MIG6タンパク質」をコードすることが知られています。
そこで、MIG6を欠損した肺がん細胞でALK阻害薬の薬剤耐性が起こるかどうかを調べたところ、ALK阻害薬にやや抵抗性が認められました。次に、EGFRに結合する増殖因子であるEGFやTGFαを用いて刺激し、下流シグナルや薬剤感受性の変化などについての解析を行ったところ、健常人の血中濃度に相当する微量のEGFで刺激してもALK陽性肺がん細胞ではALK阻害薬感受性に変化はありませんでしたが、MIG6を欠損させた細胞では、微量のEGFを添加するだけでEGFR下流の腫瘍増殖に関連するシグナルが活性化し、著明にALK阻害薬耐性となることが明らかになりました。
研究グループは、MIG6欠損による耐性は、ALK阻害薬と抗EGFR抗体薬を併用することで、EGFRからの増殖シグナルが抑制されて克服できる可能性があると考え、実験で確認。動物実験も行った結果、十分な治療効果が認められました。さらに同様の薬剤耐性メカニズムはROS1融合遺伝子陽性の肺がん細胞でも生じることが実験的に確認されました。