トリプルネガティブ乳がんの抗がん剤抵抗性に関わるメカニズムを解明

2024/02/16

文:がん+編集部

 治療困難なトリプルネガティブ乳がんの抗がん剤抵抗性に関わるメカニズムが解明されました。

エネルギー代謝に関わるMint3の抑制で、トリプルネガティブ乳がんの抗がん剤抵抗性が感受性に変化

 関西医科大学は2023年12月18日、トリプルネガティブ乳がんの抗がん剤抵抗性にエネルギー代謝が関わることを解明し、その制御に関わる分子「Mint3」を抑制することでトリプルネガティブ乳がんを抗がん剤感受性に変化させることに成功したことを発表しました。同大附属生命医学研究所がん生物学部門の坂本毅治学長特命教授らの研究グループによるものです。

 トリプルネガティブ乳がんはホルモン受容体やHER2といった治療標的となり得るタンパクを発現していないため、治療には細胞傷害性抗がん剤を用いた化学療法が用いられます。しかし、トリプルネガティブ乳がんは化学療法に対して抵抗性を示すことが多く、それには細胞培養実験では示されないさまざまな生体でのメカニズムが関わると考えられています。

 研究グループは、細胞内酸素センサーの調節に関わりがんの悪性化を促進するMint3という分子に着目。トリプルネガティブ乳がんでMint3の発現を抑えた際に抗がん剤への抵抗性が変化するかについて細胞培養実験とマウスへの腫瘍移植実験で解析を行いました。その結果、細胞培養実験ではMint3の発現を抑えても抗がん剤への抵抗性は変化しませんでしたが、マウスに移植した腫瘍ではMint3の発現を抑えることで、細胞傷害性抗がん剤のドキソルビシン、パクリタキセルに対する抵抗性が減少し、化学療法によりトリプルネガティブ乳がん腫瘍の増殖を顕著に抑えることに成功しました。

 そこでMint3を抑えることでトリプルネガティブ乳がん腫瘍の中でどのような変化が起こっているかについて遺伝子発現解析を行ったところ、マウスに移植したトリプルネガティブ乳がん腫瘍でMint3を抑えるとHSP70などのストレス耐性に関わる遺伝子の発現の低下が観察され、ヒトのトリプルネガティブ乳がん手術検体でも同様のメカニズムが確認されました。また、HSP70を阻害することでMint3を抑えた時と同様に抗がん剤がトリプルネガティブ乳がん腫瘍に効きやすくなることがわかりました。

 さらに、なぜトリプルネガティブ乳がん腫瘍でMint3を抑制するとHSP70などの発現が低下するかについてメカニズムの詳細な解析を実施。その結果、トリプルネガティブ乳がんは酸素・栄養の豊富な培養液中にいる状態と異なり、生体ではMint3が解糖系と呼ばれる酸素に依存しないエネルギー代謝を促進しているため、Mint3を抑えることでトリプルネガティブ乳がんのエネルギーが顕著に低下することがわかりました。このエネルギーの低下により、トリプルネガティブ乳がん腫瘍では細胞の増殖などを促進するmTORシグナルが低下し、mTORシグナルにより活性化される、HSP70などのストレス耐性遺伝子の発現を促す転写因子HSF-1の活性が低下することから、HSP70の発現が低下することがわかりました。

 研究チームは本研究の成果として、次のように述べています。

 「本研究により、トリプルネガティブ乳がんの生体での抗がん剤抵抗性について、エネルギー代謝が重要な役割を果たすことが明らかとなりました。また、その制御にMint3が関わり、Mint3を抑えることで、化学療法に抵抗性を示すトリプルネガティブ乳がんを化学療法が効くように変化させることができることがわかりました。今回の発見により、Mint3を標的とした薬剤やその下流のイベントに関わる分子の阻害剤と細胞傷害性抗がん剤を併用することで、より効果的なトリプルネガティブ乳がんの治療法の開発が期待されます」