肺がんが脳に転移するメカニズムを解明

2024/04/04

文:がん+編集部

 肺がんが脳に転移するメカニズムが解明され、脳転移に重要な役割を担うタンパク質が同定されました。同タンパク質を標的とした治療法の開発が期待されます。

タグリッソに耐性を示す肺がん細胞に対し、mGluR1を阻害することで脳転移の進展を抑制することが判明

 金沢大学は2024年2月19日、肺がんが脳に転移するメカニズムを解明したことを発表しました。同大がん進展制御研究所の石橋公二朗助教、平田英周准教授、附属病院脳神経外科の中田光俊教授、呼吸器内科の矢野聖二教授らを中心とした共同研究グループによるものです。

 肺がんは脳に転移しやすいことが知られており、がん脳転移全体の半数近くを占めています。現在行われているがん脳転移に対するいくつかの治療には一定の効果はありますが、一時的に治療が上手くいった場合でも治療に対して耐性が出現することがあり、がんの根治を難しくしています。

 研究グループは、がん細胞がどのようにして脳の中に入り込み、脳の中で増殖していくのかを調べるため、がん細胞と、脳で神経細胞を支えるグリア細胞とのやり取りを詳細に解析するための新たな研究手法「MGS法」を開発。それによりがん細胞とグリア細胞とのやり取りを長期間に渡って詳細に調べることが可能となりました。

 このMGS法を用い、研究グループは肺がん細胞が脳に転移する際に重要な役割を担うタンパク質として「mGluR1」の同定に成功。本来の肺がん細胞はmGluR1を発現していませんが、グリア細胞の一種であるアストロサイトから分泌される「Wnt-5a」が 「PRICKLE1」と「REST」という分子の制御を介してがん細胞にmGluR1の発現を誘導し、誘導されたmGluR1が肺がん細胞の増殖に重要な役割を担う上皮成長因子受容体(EGFR)と直接結合してこれを活性化することで、肺がん細胞が脳の中で増えていくことが明らかとなりました。

 また、EGFR阻害薬オシメルチニブ(製品名:タグリッソ)に耐性を示す肺がん細胞に対しても、mGluR1を阻害することで脳転移の進展を抑制することが判明しました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究では、マウスや培養細胞を用いた実験だけでなく、肺がん脳転移の患者さんの組織標本においてもmGluR1の発現誘導が確認されています。これらの研究成果は将来、脳転移を来した肺がん患者さんに対する、新たな治療戦略の開発に繋がることが期待されます」