世界最大規模の統合解析により、がん個別化医療による生存期間の延長を確認
2024/08/30
文:がん+編集部
1万6,144人の固形がん患者さんを対象に、分子プロファイル、治療成績、生存期間などに関する解析を実施。がん個別化医療による生存期間の延長が確認されました。
バイオマーカーに適合する治療を受けた患者さん、受けなかった患者さんと比較して死亡リスクが23%低下
国立がん研究センターは2024年7月19日、広範な固形がんを対象とした日本初の産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトであるSCRUM-Japan MONSTAR-SCREENプロジェクトで実施された4つの多施設共同研究の統合解析の結果が、米国癌学会旗艦誌「Cancer Discovery」に掲載されたことを発表しました。同研究センター東病院の吉野孝之副院長、橋本直佳消化管内科/トランスレーショナルリサーチ支援室医員らの研究グループによるものです。
今回の統合解析は、GI-SCREEN、GOZILA、MONSTAR-SCREEN、MONSTAR-SCREEN-2に参加した1万6,144人の患者さんを対象としたもので、患者さんのがんの分子プロファイルを詳細に調べ、バイオマーカーに基づく治験薬治療を受けた患者さんの割合や治療成績およびバイオマーカーに基づく標的治療を受けた患者さんの生存期間が調査されました。
解析の結果、治験薬治療を受けた患者さん674人のうち、奏効が認められた患者さんは29.2%で、全生存期間の中央値は14.8か月でした。また、全体の約20%の患者さんがバイオマーカーに基づく標的治療を受けており、バイオマーカーに適合する治療を受けた患者さんの生存期間中央値は19.1か月であったのに対し、適合する治療を受けなかった患者さんの生存期間中央値は15.3か月で、死亡リスクは23%低下していました。このことから、バイオマーカーに基づいた標的治療により、患者さんの生存期間が延長する可能性があることが分かりました。
研究グループは展望として、次のように述べています。
「本研究の成果は、さまざまな分子プロファイリング検査で見つかったバイオマーカーに基づいて適合する標的治療を届けるがん個別化医療の重要性を明確に示すものです。近年の解析技術や創薬技術の目覚ましい発展により、患者さん一人ひとりの腫瘍の特徴をより詳細に調べる精密な分子プロファイリングが可能になってきました。こうした最先端技術を駆使することで、より多くのがん患者さんに、より早く、より有効な治療薬を届けられることが大いに期待されます。さらに、MONSTARプロジェクトでは、新たな大規模研究MONSTAR-SCREEN-3を開始予定です。この研究では、対象を進行固形がんの患者さんだけでなく、治癒切除が可能な早期の固形がんの患者さんや血液腫瘍の患者さんにも広げ、それぞれの病態に応じた最先端のマルチオミクス解析を行う予定です。今後も世界最先端のマルチオミクス解析を活用し、世界中のがん患者さんとそのご家族に有効な治療法を届けられるよう、がん個別化医療の発展に全力で取り組んでまいります」