がん細胞内で効率的に抗がん剤を放出する新たな抗がん剤ナノ粒子の開発に成功

2024/09/12

文:がん+編集部

 がん細胞内で効率的に抗がん剤「SN-38」を放出する新たな抗がん剤ナノ粒子が開発されました。副作用を軽減した抗がん剤の開発につながることが期待されます。

新たなプロドラッグSNC4DC、イリノテカンと比較して高い薬理活性を動物実験で確認

 東北大学は2024年8月7日、がん細胞内で効率的に薬物を放出する新規抗がん剤ナノ粒子の作製に成功したことを発表しました。

 近年、ナノキャリアという粒子に薬物を内包させて粒径200nm以下にサイズ制御したナノ薬剤をがん病巣へ効率的に集積させる研究が行われています。しかし、ナノキャリアによる抗原性の発現や、1つの粒子に内包可能な薬物の量が少ないなどの問題点が指摘されていました。

 研究グループは、こうした問題を解決するためにプロドラッグ分子のみで構成されるナノ薬剤「ナノ・プロドラッグ」を提唱し、抗がん活性物質「SN-38」のプロドラッグ分子設計を研究してきました。

 今回の研究では、がん細胞で高濃度に保たれている「グルタチオン」という分子に着目し、グルタチオンによりがん細胞内で効率的に代謝されるSN-38のプロドラッグ「SNC4DC」を新たに設計・合成しました。実際に、SNC4DCの薬物放出挙動を評価したところ、生体に投与後、血中では代謝や溶解をしないため、従来の薬物と異なり、血中に薬物分子がほぼ出てこないことが判明しました。さらに、このナノ・プロドラッグをマウスに対して投与した抗腫瘍活性評価では、イリノテカン(SN-38として同量)と比較して高い薬理活性を示しました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「研究チームはSNC4DC ナノ・プロドラッグの臨床研究への進展に向け、大量作製方法の確立とさらなる毒性/安全性試験を行う計画を立てています。将来的には、今回の分子設計戦略を応用することでその他の疾患に対するナノ薬剤(点眼薬など)の開発にもつなげることを目指しています」

※そのままでは不活性な、もしくは明らかに活性の低い形態で投与される医薬品。投与された後、生体内で代謝されることで活性代謝物へと変化し、薬効を示す。