乳がんの浸潤や転移、脂肪細胞の発達により促進されることが判明
2024/10/02
文:がん+編集部
乳がんの浸潤や転移が、脂肪細胞の発達(成熟)により促進されるメカニズムが解明されました。
成熟した脂肪細胞の分泌因子を標的とするがん治療法開発と、肥満に関連するがんの悪性化機序解明が期待される
藤田医科大学は2024年8月27日、乳腺にある脂肪細胞が乳がん細胞に及ぼす影響を解析し、脂肪細胞が十分脂肪を溜め込むほど成熟することにより、乳がん細胞の浸潤や転移が格段に促進されることを明らかにしたと発表しました。同大学医学部生化学の下野洋平教授、同医学部病理学の浅井直也教授、臨床腫瘍科の河田健司教授らの研究グループによるものです。
乳腺に豊富に存在する脂肪組織は、正常乳腺や乳がんの形成に必須の基盤となるとともに、乳がんの悪性化にも関与していると推測されてきました。これまで研究グループは、乳がん手術検体を用いた解析から、乳腺脂肪細胞が分泌する免疫分子「アディプシン」ががん細胞の増殖やがん幹細胞性を促進することを解明してきましたが、乳腺脂肪細胞やその成熟ががん浸潤や転移などを促進する分子メカニズムは不明でした。
そこで研究グループは、乳腺脂肪組織から分離培養した乳腺脂肪細胞が乳がん細胞の浸潤能に及ぼす影響を解析。その結果、脂肪滴を十分溜め込むまで成熟した脂肪細胞は、未成熟の脂肪細胞の10倍以上強く乳がん細胞の浸潤を促進することが判明しました。また、がん細胞の移動や浸潤の促進にも成熟した脂肪細胞の分泌因子が関わっている可能性を考え、成熟脂肪細胞が分泌する因子111種をスクリーニングした結果、免疫分子「アディプシン」、肝細胞増殖因子(HGF)などが脂肪細胞の成熟に伴い分泌されることがわかりました。成熟した脂肪細胞から多量に分泌されるアディプシンは、脂肪細胞を自己刺激して、脂肪細胞からのHGFなどの分泌をさらに促進することで、強力に乳がん細胞の移動、浸潤を促進することも判明しました。
さらに、アディプシン遺伝子を欠損したノックアウトマウスを用い、乳がんに接する乳腺脂肪組織へのがん細胞浸潤や炎症反応、腫瘍被膜形成を調べたところ、野生型マウスに比べこれらが明らかに抑制されるとともに、肺への乳がん転移を起こすマウスの数も減少していることがわかりました。その分子メカニズムを解明するために腫瘍組織の遺伝子発現解析や、脂肪細胞とがん細胞の共培養実験を行ったところ、アディプシンを発現する成熟脂肪細胞は、がん細胞においてがんの移動、浸潤、転移を促進する物質の発現を誘導することがわかりました。
研究グループは今後の展開として、次のように述べています。
「脂肪細胞の成熟が乳がん細胞を一層悪性化させる分子機構を示した本研究は、肥満ががんの悪性化因子となる仕組みとも関連する可能性がある。今後、アディプシンやHGFなど成熟した脂肪細胞が分泌する因子を標的としたがん治療法の開発や、肥満を背景に発生および悪化する乳がん以外の各種のがん(食道がん、膵臓がん、大腸がん、子宮内膜がん、腎臓がんなど)の悪性化メカニズムの解明が進むことが期待される」