予後不良な膵臓がんサブタイプの悪性化の機序を解明

2018/12/28

文:がん+編集部

 ヒストン修飾遺伝子が不活化している膵臓がんが、予後不良になる機序が解明されました。このタイプの膵臓がんの新規治療法の開発が期待されます。

脱アセチル化構想阻害薬による治療で有効な可能性

  東京医科歯科大学日本医療研究開発機構は12月18日、ヒストン修飾遺伝子が不活化している膵臓がんが予後不良になる機序を解明したと発表しました。この成果は、同大大学院 医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、秋山好光講師、渡辺秀一大学院生の研究グループと、同ウイルス制御学の山岡昇司教授、同肝胆膵外科学の田邉稔教授との共同研究によるものです。

 同じ臓器から発生したがんでも、遺伝子変異や発現プロファイルが異なるタイプがあり、近年ではこうしたタイプの異なるがんを「サブタイプ」として分類するようになっています。乳がんでは、ホルモンやHER2などの要素によってサブタイプ分類が行われ、それぞれのタイプに合わせた治療選択が行われています。膵臓がんでも、こうしたサブタイプ分類が提唱され、最も予後不要なサブタイプの特徴としてヒストン修飾因子の1つであるKDM6Aの不活化変異が報告されていました。KDM6Aがヒストンアセチル化酵素p300と複合体を形成することで、遺伝子の発現を制御していることはわかっていましたが、膵臓がんにおける臨床的意義や機能については不明でした。

 今回の研究では、まず147症例の膵臓がんを再解析し、3つのサブタイプに分類できることを確認しました。予後不良なサブタイプは全体の30%で、KDM6Aの発現低下とKDM6Aのアレル欠失が集積していたそうです。この知見をもとに膵臓がんの臨床症例を解析したところ、全症例の25%でKDM6Aが発現しない症例が認められ、予後不良であることが見出されました。

 ヒトの体には約300種類の細胞がありますが、ほとんどが同じDNAを持っています。生命の設計図ともいわれるDNAが同じなのに、異なった臓器や細胞になるためには、特定の遺伝子のみを発現させる制御が必要です。遺伝情報の発現制御に関わっているのが、染色体を構成するヒストンというたんぱく質のアセチル化で、こうした化学的変化を制御するのがヒストンアセチル化酵素です。

 今回、KDM6A不活化によるヒストンアセチル化の低下は、脱アセチル化構想阻害薬の使用で回復することを証明し、動物実験でも脱アセチル化構想阻害薬の投与より腫瘍抑制されることが明らかになりました。この結果から、予後不良なKDM6A不活化膵臓がんのサブタイプでは、特異的治療として脱アセチル化構想阻害薬による治療の有効性が示唆され、今後の臨床応用が期待されます。