がんはなぜ高齢者で好発するのか?メカニズムの一端を解明
2019/01/18
文:がん+編集部
がんが高齢者で発症するメカニズムの一端が解明されました。最新の遺伝子解析技術を使った研究によるものです。
一見正常な食道に生じている遺伝子変異を最新の遺伝子解析技術で解析
京都大学は1月8日、食道がんが高度の飲酒歴と喫煙歴がある人に好発することに着目し、一見正常な食道に生じている遺伝子変異を最新の遺伝子解析技術で詳細に解析することにより、がんが高齢者で発症するメカニズムの一端を解明することに成功したと発表しました。京都大学大学院医学研究科・腫瘍生物学講座 小川誠司 教授、横山顕礼 同特定助教、垣内伸之 同研究員、吉里哲一 同助教、同腫瘍薬物治療学講座 武藤学 教授および東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 宮野悟 教授らを中心とする研究チームによるものです。
研究グループは、発がんリスクとの関連がよく知られている食道がんに注目し、一見正常に見る食道上皮に、がん化に先立って生じる遺伝子異常を詳細に解析しました。様々な年齢、喫煙歴、飲酒歴がある被験者から食道上皮を採取して、次世代シーケンサーで解析。その結果、食道がん患者さんは、一見正常に見える食道上皮でも、解析したすべての細胞で遺伝子変異が認められました。また、食道がんではない健常者でも、食道上皮の遺伝子変異が高頻度に観察されたそうです。
これらの解析結果により、食道上皮では、食道がんで頻繁に認められる遺伝子変異を獲得した細胞が加齢にともなって徐々に増えていき、70 歳を超える高齢者では全食道面積の40〜80%がこうしたがん遺伝子の変異をもった細胞に置き換わることがわかりました。こうした食道上皮の異常な細胞による「再構築」は、乳児から始まり健常人で例外なく認められましたが、高度の飲酒と喫煙歴のある人では、この過程が強く促進され、がんで最も高頻度に異常が認められるTP53遺伝子や染色体に異常がある細胞の割合が増加することが明らかになりました。
京都大学医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授は「近年の研究によって、がんはゲノムに傷が生じた細胞が増殖することによって疾患であるということがわかってきましたが、今回の研究によって、そのようなゲノムに傷をもった細胞が一体どのようにして生じてくるのかということを解き明かす大きな手がかりが得られました。がんは国民の生命を脅かす深刻な疾患ですが、今回の研究成果を突破口として、がんが生ずる初期のメカニズムの解明に取り組んでいます。私たちの研究が、がんの早期診断や予防に貢献し、がんの死亡率の低減に資することができればと考えています」とコメントしています。