肺腺がんの悪性化メカニズムを解明、新たな治療薬開発の可能性も

2019/02/19

文:がん+編集部

 肺腺がんの悪性化を引き起こすメカニズムが明らかになりました。既存薬の再開発により、新たな抗がん薬の候補が見つかる可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬とSFN阻害薬の併用にも期待

 筑波大学は2月5日、肺腺がんで過剰に発現しているstratifin(SFN)というたんぱく質が、ユビキチン化酵素の一部であるSKP1と結合し、がん細胞の増殖を促すタンパク質群のユビキチン化と分解を抑制することで、がん細胞の悪性化を引き起こしていることを明らかにしたと発表しました。この研究成果は、同大医学医療系の野口雅之教授、柴綾助教、産業技術総合研究所創薬分子プロファイリング研究センターの広川貴次研究チーム長らの研究グループによるものです。

 ユビキチン化とは、標的となるたんぱく質に結合して目印をつけ、そのたんぱく質を分解する作用のことです。先行研究では、肺腺がんで過剰に発現しているSFNタンパク質がSKP1に結合することが解明されていました。今回、研究グループは、SFNタンパク質とSKP1の結合により、SKP1が本来もっている機能が抑制されていることを発見。その結果として、細胞増殖を促進するたんぱく質群が分解されず、細胞内に蓄積されてしまうことを解明しました。これによりSFNとSKP1との結合を阻害することで、細胞増殖因子が分解され、抗がん作用が得られる可能性を見出しました。

 そこで研究グループは、SFNとSKP1の結合を阻害する化合物を探索。すでに販売されている4000を超える薬の中から、制吐剤のアプレピタントと抗血小板薬チカグレロルがSFNとSKP1の結合を阻害することを明らかにしました。マウスを使った実験では、この2剤が腫瘍の増大を抑制したことを確認したそうです。

 SFNは、肺腺がんの初期から過剰に発現するため、SFN阻害薬は進行したがんだけでなく、早期がんの進行予防にも使用できると考えられています。また現在、比較的早期の患者さんを対象に臨床試験が行われている免疫チェックポイント阻害薬と、SFN阻害薬を併用することで、相乗効果が得られる可能性もあるとのこと。研究グループは、今後の臨床試験実施に向けて準備を進める予定としています。