膵がん検診研究を北海道で開始、新たな血液バイオマーカーを使用
2019/03/29
文:がん+編集部
新しい血液バイオマーカーを使った、膵臓がん検診の検証を行う臨床研究が北海道で始まります。膵臓がんを引き起こす慢性膵炎や膵管内乳頭粘液性腫瘍、早期膵臓がんを効率的に発見する検診法の開発が目的です。
50歳以上の札幌市民約5,000人が対象
国立がん研究センターは3月25日に、膵臓がんのリスク疾患や早期膵臓がんの新検診法の開発目指した新たな血液バイオマーカーでの実験的検診を、2019年は北海道で実施することを発表しました。この臨床研究は、2017年にスタートし、2017年と2018年に鹿児島県と神戸市で実施されていました。
血液中のアポリポプロテインA2(apoA2)というタンパク質の分子が、早期の膵臓がんや膵臓がんのリスク疾患で低下することを、2005年に国立がん研究センター研究所創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長らの研究グループが報告しました。この発見を受け2015年に、米国国立がん研究所との共同研究で、米国の早期膵臓がん患者さん(I期、II期98例)を含む252例の血液のapoA2タンパク質を測定した結果、健常者に比べて早期の膵臓がん患者さんでapoA2タンパク質が低下していることが確認され、本田ユニット長の研究グループは、検査キットの開発に成功しました。
この研究成果と検査キットの開発により、同センターは神戸大学と共同で膵臓がんの検診研究を試行し、バイオマーカーの異常があった人から膵臓がんのリスク疾患や膵臓がんを発見できることが確認されています。しかし、検査で陽性となった患者さんの希望にあわせて精密検査を行なっていたため精密検査を受ける人が少なく、検査の有用性を科学的に証明するためのデータは確保できませんでした。
今回北海道で実施される臨床研究では、血液検査によるバイオマーカー検査と、この検査で陽性反応がでた人には、造影CT検査などによる精密検査がセットで行われます。目標登録数は約5,000人で、2017年度と2018年度の実施数と合わせて約1万5,000人を目指すとしています。2019年度の実施施設は、北海道体がん協会札幌がん検診センターと北海道大学のみです。
2019年度の試験的膵臓がん検診の概要
検診実施場所
北海道対がん協会札幌がん検診センターが実施するがん検診や地域健康診断、人間ドック目標参加者数(北海道での参加者目標)
約5,000人(50歳以上の札幌市民)
検診実施期間
2019年4月から11月まで(目標登録数に到達次第終了)臨床研究の実施方法
1.検診での採血7mLを用い、1次ふるいわけ検査(1次スクリーニング検査)として血液中のアポリポプロテインA2アイソフォームの濃度バランスを計測します。2.血液検査結果は被験者にお知らせして、異常値がみられた方には北海道大学病院で、精密検査(2次検査)として造影CT検査(原則)を受けていただきます。
3.血液検査陽性者(1次スクリーニング検査陽性者)の中から、どれくらいの頻度で膵がんのリスク疾患や早期膵がんが見つかるのか、その検出率(陽性反応適中率)を調べます。
注意点
1.本臨床研究には該当検診機関が定める検診を受けていただいた50歳以上の方のみ参加いただけます。バイオマーカー検査のみをご希望の方はご参加いただけません。2.本検査は、試験的に行う検査ですので、「病気がないのに、誤って陽性になること(偽陽性)」や「病気があるのに、誤って陰性になること(偽陰性)」の可能性があります。そのため、陽性と判定されても必ずしもがんがあるわけではありませんし、陰性と判定されても、がんが否定されたわけではありません。