iPS細胞からがんを攻撃するCAR発現NK細胞を製造開発する共同研究開始

2019/04/09

文:がん+編集部

 iPS細胞からCAR(キメラ抗原受容体)を発現させたNK細胞を開発するために、京大iPS細胞研究所とキリンホールディングスが共同研究を開始しました。

安定した品質とコスト削減を実現した細胞療法を目指す

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA:サイラ)は4月3日に、再生医療用iPS細胞ストックから、CARを発現させたNK細胞を製造開発するために、キリンホールディングス株式会社と共同研究を始めたと発表しました。

 今回のプロジェクトでは、CiRAの金子新准教授のグループによる研究成果をもとに、iPS細胞ストックにがんを認識するCAR遺伝子を導入し、CARを発現させたNK細胞に分化させるための臨床用製造プロセスの確立と臨床用製剤を供給する体制構築を目指すそうです。

 元となるiPS細胞は、CiRA附属の臨床用細胞調整施設FiTで製造され、品質の保証されたiPS細胞が安定的に提供されます。キリンホールディングスは、品質の保証されたiPS細胞由来の臨床試験用細胞を難治性の患者さんに届けるサポートをするとともに、細胞加工技術をキリングループの新たな事業基盤とするとしています。

 CiRAの山中伸弥所長は「CARによるがん免疫療法は実用化が始まっていますが、患者さんごとの製造が必要となる自家移植が中心でコストの面など課題があります。iPS細胞ストックを用いた本プロジェクトを進めることによって、安定した品質での細胞治療を可能にするとともにコスト削減につながることを期待します」とコメントしています。

 CARを発現させた免疫細胞療法としては、CAR-T細胞療法チサゲンレクルユーセル(製品名:キムリア)が3月26日に、国内で承認されました。CAR-T細胞療法は、患者さんから採取したT細胞にCARを発現させ、培養したのち再び患者さんの体内に戻す自家移植による治療です。患者さんごとにCAR-T細胞を製造するため、拒絶反応の心配が少なく高い治療効果が期待されますが、製造工程に時間と費用がかかります。iPS細胞由来の安定した品質とコスト削減を可能にした、CAR発現NK細胞療法の実現が期待されます。