ER陽性乳がん、なぜタモキシフェンが効かなくなるのか
2019/04/23
文:がん+編集部
乳がん細胞の増殖のカギとなるタンパク質が発見されました。このタンパク質は、乳がんの治療薬が効かなくなることにも関連しているそうです。
乳がん増殖・治療薬効果のカギとなるタンパク質を発見
慶應大学は4月18日に、乳がんの増殖や乳がん治療薬の効果のカギとなるタンパク質を発見したと発表しました。慶應義塾大学先端生命科学研究所の齊藤康弘特任講師と曽我朋義教授らの研究グループによるものです。
乳がんは、ホルモン受容体やHER2の陽性陰性により、5つのパターンに分類されます。エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)が陽性でHER2が陰性はルミナルA型、ERかPgRのどちらかが陽性でHER2陰性はルミナルB型(HER2陰性)、ERかPgRのどちらか、もしくは両方が陽性でHER2陽性はルミナルB型(HER2陽性)、ER、PgR療法が陰性でHER2陽性はHER2型、ER、PgR、HER2ともに陰性はトリプルネガティブといいます。
ホルモン受容体が陽性の乳がんは、乳がん全体の約70%を占めており、ホルモン療法が有効です。しかし、ERを標的とする抗エストロゲン薬タモキシフェンは、一部の患者さんで治療をしているうちに効果がなくなってしまうことが問題となっており、なぜタモキシフェンが効かなくなるのかはわかっていませんでした。
研究グループは、ER陽性乳がん細胞に、異常に多いLLGL2というタンパク質に着目し研究を行いました。その結果、ER/PR陽性の乳がん患者さんで、LLGL2の発現が高い人は生存率が下がること、LLGL2は栄養ストレス下にある ER陽性乳がん細胞の増殖を促進することがわかったそうです。がん細胞は生体内において栄養ストレス状態においても増殖することから、LLGL2は栄養ストレス下での乳がん細胞増殖のカギとなると考えられました。さらに、LLGL2は細胞内のアミノ酸量を制御していることもわかり、アミノ酸であるロイシンの細胞内への取り込みを制御することで、細胞増殖を亢進していることも明らかとなりました。アミノ酸を細胞内(外)へ輸送する働きを持つたんぱく質であるSLC7A5がLLGL2と結合することで、細胞外のロイシンを細胞内への取り込みを誘導していることも判明しました。
また、ER陽性乳がん細胞では、活性化したERによって標的遺伝子の転写が亢進され、異常な細胞増殖が起こりますが、LLGL2がERを活性化による細胞増殖に必要なタンパク質であることもわかったそうです。
このことから、ER陽性乳がん細胞では、活性化したERがLLGL2を増加させ、増加したLLGL2はSLC7A5を細胞表面へ運び、細胞内のロイシンが増加することで、細胞増殖亢進すること、さらに、タモキシフェンが効かなくなる原因となることが示されました。
しかし、細胞内に取り込まれたロイシンが、どのような働きをすることで、細胞増殖が起こるのかはまだわかっていません。今後、ER陽性乳がん細胞内のロイシンの働きを明らかにすることで、新たな治療薬や治療法の開発にもつながると期待されます。