難治性のがんに核酸医薬品を安定して届ける技術を開発

文:がん+編集部

 膵臓がんや脳腫瘍などの難治がんに、核酸医薬品を安定して送り届けるためのナノ技術が開発されました。

膵臓がんや脳腫瘍など、新たな治療薬としての実用化を目指す

 東京大学大学院工学系研究科は4月25日に、血液中ですぐに代謝されてしまい、疾患組織への到達率が低い核酸医薬品を安定して送り届ける「核酸医薬品ナノマシン」の開発に成功したと発表しました。川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター長で、東京大学未来ビジョン研究センターの片岡一則特任教授と東京大学大学院工学系研究科の宮田完二郎准教授、名古屋大学大学院医学系研究科の近藤豊教授らの研究グループによるものです。

 核酸医薬品は、特定の遺伝子発現を調節できるため、遺伝子変異によるがんなどの治療薬として期待されています。しかし、核酸医薬品は血液中ですぐに代謝されてしまうため、疾患組織への到達率が低く、十分な治療効果が得られないことが課題でした。

 研究グループはこの課題を解決するために、核酸医薬品と血液中で選択的に結合することで分解酵素から保護するナノマシンを開発しました。このナノマシンのサイズは非常に小さいため、生体内に存在するさまざまバリアを突破することができます。例えば、膵臓がんの場合、血管とがん細胞の間に繊維性の間質組織が張り巡らされています。脳腫瘍では、血管の壁の隙間がもともと小さく、脳実質や脳腫瘍組織への移行が著しく制限されます。これらは、生体バリアの一種であり、膵臓がんや脳腫瘍へ核酸医薬品を送ることを非常に困難にしている原因でもあります。ナノマシンは、こうしたバリアを突破できるのです。

 今回、研究グループが開発した核酸医薬品ナノマシンは、形と長さが精密に調節されたポリマー1〜2分子と核酸医薬1分子から形成されるため、サイズが非常に小さいという特徴があります。もう1つの特徴がY字型デザインです。Y字のうち、2本の枝は、生体適合性に優れるポリマーでできており、残りの1本の枝は、核酸医薬と結合するポリマーでできています。それぞれの枝の長さが調節されており、血液中で選択的に核酸医薬に結合し、それ以外の生体成分との相互作用は低く抑えられる構造になっています。その結果、Y字型ポリマーは、血流中で入れ替わりながら核酸医薬とランデブーするように、動的かつ安定なナノマシンを形成することができるといいます。このナノマシンを、膵臓がんや脳腫瘍のモデルマウスに使ったところ効果的に集積する様子が確認され、顕著な延命効果が認められました。

 今後、核酸医薬搭載ナノマシンを医薬品として実用化を目指す取り組みが始められており、膵臓がんや脳腫瘍など難治がんへの新たな治療につながると期待されます。