肺がん治療薬の効き目を予測、日本最大のがんゲノムデータとスーパーコンピュータによるゲノム解析

2019/05/14

文:がん+編集部

 肺がんの遺伝子変異に対する有効な薬を予測するシステムが開発されました。日本最大のがんゲノムデータとスーパーコンピュータ「京」を使ったシステムです。

遺伝子変異に合わせた治療薬を迅速選択

 慶應義塾大学は5月7日に、LC-SCRUM-Japan で構築した日本最大のがん臨床ゲノムデータを活用し、スーパーコンピュータ「京」を用いた予測システムにより、肺がんの遺伝子変異に対する薬剤有効性が高精度に予測可能なことを確認したと発表しました。慶應義塾大学医学部内科学呼吸器教室の安田浩之専任講師ほか、京都大学大学院医学研究科、国立がん研究センター先端医療開発センター、同東病院の研究グループらによるものです。

 肺がんは、大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分類されます。非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類されます。日本人の肺がん患者さんは、このうちEGFR遺伝子変異がある非小細胞肺がんが約40%を占めています。EGFR遺伝子変異のほかにも、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などさまざまな遺伝子変異が、ゲノム医療の進歩により同定され、それぞれの遺伝子変異に合わせた分子標的薬が開発されてきました。しかし、稀な遺伝子変異に対しては、投薬効果の予測が難しく、薬剤選択の大きな障害となっています。

 研究グループは、日本人の肺がんで最も多いEGFR遺伝子変異に注目し、2,164人の肺がん患者さんの遺伝子変異を分析しました。その結果、稀なEGFR遺伝子変異をもつ肺がんに対して、治療効果が高い抗がん剤を予測することができたそうです。

 EGFR遺伝子は約3,700の塩基からなり、変異の場所や変異の仕方によって薬の効き方が異なります。日本人の肺がんにおけるEGFR遺伝子変異の約20%は、種類が多様で稀な変異で、それぞれの稀な変異を持つ患者さんは少数といわれています。今回、研究グループは、希少な9種類の変異に対して、スーパーコンピュータ「京」を使い、変異で生じるタンパク質の構造変化と薬の効果の違いをシミュレーションしました。その結果、培養したがん細胞を使った薬の効果を調べた実験結果と一致することが確認できました。

 多様で稀なEGFR遺伝子変異に対し、1つ1つ細胞実験で効果を確かめるのは難しいため、今回研究グループが開発した予測システムを使うことで、迅速に効果の高い治療薬を選択できるようになることが期待されます。