厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」が 報告書案を公開しました

提供元:P5株式会社

厚生労働省が、がんのよりよい治療の提供を検討するために設置した「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」が、この5月29日に報告書案を公開しました[参考文献1]。
今夏、この報告書が正式にまとめられることをきっかけに、日本のがんゲノム医療の体制整備が一気に進む可能性があります。

報告書案のポイントとしては、次のことなどが盛り込まれています。

  • 本年度中に7カ所程度の「がんゲノム医療中核拠点病院」を指定すること。
  • 100種類以上の遺伝子変異を一度に調べられる検査を、医療現場で利用可能な検査として承認すること。
  • 全国の病院からデータを集める「情報管理センター」を新設すること。

厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」設置の背景

がんの多くは、遺伝子の変異が原因で発症します。
そのため変異した遺伝子産物をターゲットとした薬剤(分子標的薬)には、有効な治療効果が期待できます。
このような、がんにおける遺伝子変異など個々人の病気の状態を精緻に調べ診療する、プレシジョン・メディシンに基づいたがんゲノム医療が、これからのがん診療の主流になってくることは間違いありません。

がんゲノム医療を行っていくうえで必須なのが、患者さんのがんがどのような遺伝子の変異を持っているかという情報です。 しかしこの遺伝子の変異は多様であるため、変異を同定するためには、複数の遺伝子を一度に調べる検査である、Multi-plexのがんゲノム検査が必要になります。

米国では、Multi-plexのがんゲノム検査の普及を目的とした国家プロジェクト(NCI-MATCH)があり、大学病院やがんセンターなどの医療機関では、通常診療の一環としてこのような検査を提供するところが増えています。 米国では、すでにこのようながんゲノム検査が、年間10万件以上行われています。 一方、日本では、臨床研究としてのがんゲノム検査(SCRUM-Japan)の実施や、いくつかの大学で自由診療として同様の検査が提供されていますが、すべて合わせても数千件程度の検査しか実施されていません。

「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」からの提言

このような状況に鑑み、厚生労働省では、最新のがんゲノム医療を国民に提供することを目的として、2017年3月に「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」を設置しました。
懇談会ではこの夏までに報告書をまとめる予定で、今回公開された報告書案[参考文献1]は、それに先駆けて公開されたものです。

この報告書案では、“本年度中に7カ所程度の「がんゲノム医療中核拠点病院」を指定して、2年以内に実施病院をさらに増やし、数年後には全都道府県の病院で実施することを目指す。そして中核病院の支援により、全国に約400ある「がん診療連携拠点病院」でも体制が整えば、順次ゲノム医療を提供できるようにする”としています。
さらに“100種類以上の遺伝子変異を一度に調べられる検査を、優先的に薬事承認して、医療現場での検査を早期に可能にすること。また、全国の病院からデータを集める「がんゲノム情報管理センター」の新設や、がんのゲノム情報から日本人患者に合った治療法を選択するための、文献や臨床情報などを基にした「知識データベース」を構築する”などを提言しています。

この夏に正式にまとめられる、厚生労働省のこの報告書をきっかけに、欧米に数年後れを取っているといわれている日本のがんゲノム医療の体制整備が、急ピッチで進むことを期待したいところです。