BRAF遺伝子変異陽性の大腸がんの一部で、抗EGFR抗体が有効な可能性

2019/10/10

文:がん+編集部

 BRAF遺伝子変異のある大腸がんに対して、抗EGFR抗体(分子標的薬)が有効であるBRAF遺伝子変異のタイプを同定しました。

大腸がんの個別化医療につながる発見

 国立がん研究センターは9月12日、BRAF遺伝子変異のある大腸がんに対する新たな個別化治療を提唱することに成功したと発表しました。愛知県がんセンターがん標的治療トランスレーショナルリサーチ分野の衣斐寛倫分野長、国立がん研究センター東病院消化管内科の吉野孝之科長のグループと米ハーバード大学、メモリアルスローンケタリングがんセンターとの国際共同研究によるものです。

 大腸がんの治療において、RAS・BRAF 遺伝子の異常の有無を検査し、異常がない場合には抗 EGFR 抗体(分子標的薬)が使用されるケースがあります。研究グループは、これまで知られていたBRAF遺伝変異とは異なるタイプのBRAF遺伝子変異が、大腸がんの2~3%に存在していることに注目。対象となるBRAF遺伝子変異の患者さんは少ないため、日本のデータとして「SCRUM-Japan GI-SCREEN」を基盤とした遺伝子検査情報と、米国ハーバード大学とメモリアルスローンケタリングがんセンターの遺伝子検査情報、日米合わせて5,000人を超える症例を解析し、抗EGFR抗体で治療されたBRAF遺伝子変異を有する大腸がん患者さん40人を抽出することに成功しました。

 BRAF遺伝子変異のある大腸がんを3つのタイプに分類し、抗EGFR抗体が有効かを検討。タイプ1は、以前より抗EGFR抗体の効果がなくなると考えられている変異で、タイプ2と3は、遺伝子パネル検査で新たにみつかった変異です。マウスの実験では、タイプ3の遺伝子変異はタイプ2と比べ、がん細胞の増殖にEGFRの関与が大きいと考えられ、抗EGFR抗体が有効な可能性があると考えられました。

 実際に40人の患者さんに対して抗EGFR抗体の効果を解析したところ、タイプ2の患者さんでは12人中1人のみしか効果が見られませんでしたが、タイプ3の遺伝子変異がある患者さんでは、28人中14人の患者さんで抗EGFR抗体の効果があることが判明しました。

 今後の展望として「本研究により、BRAF遺伝子変異のうちタイプ3に分類される遺伝子変異を有する症例では抗EGFR抗体の効果が期待できることになります。研究グループでは以前にタイプ1の遺伝子変異を有する患者さんに対し有効な治療法についても報告しており、今回の報告と合わせ、BRAF遺伝子変異を有する患者に対し、遺伝子変異より個別化した有効な治療法を提示できるようになると思われます。今後も遺伝子パネル検査で見つかる様々な遺伝子異常に対応した治療法の開発を続ける予定です」と、発表しています。