悪性中皮腫を光で破壊、新たながん光免疫療法を開発

2020/05/14

文:がん+編集部

 悪性中皮腫に特異的に発現する分子「ポドプラニン」を標的とする近赤外光線免疫療法(がん光免疫療法)の開発に成功しました。

悪性中皮腫に対する近赤外光線免疫療法の効果を細胞実験と動物実験で確認

 名古屋大学は4月24日、前臨床研究において、悪性中皮腫を光で破壊する、新たながん光免疫療法「近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)」の開発に成功したことを発表しました。同大大学院医学系研究科呼吸器内科学博士課程4年(現、一宮市立一宮市民病院呼吸器内科)の西永侑子大学院生、佐藤和秀S-YLC特任助教らの研究グループと、米国がんセンター分子治療診断部門の小林久隆主任研究員、東北大学未来科学技術共同研究センターの加藤幸成教授らとの共同研究によるものです。

 がん光免疫療法は、米国がんセンター分子治療診断部門の小林久隆主任研究員らの研究グループが開発した治療法です。がん細胞が発現しているタンパク質を特異的に認識する抗体に、光感受性物質を付加した薬剤(複合体)を患者さんに投与し、その複合体が細胞表面の標的タンパク質に結合している状態で、近赤外線を病変に照射することでがん細胞を破壊します。破壊されたがん細胞が、質のいい抗原となるため、免疫による効果も期待されます。

 現在、局所再発した頭頸部扁平上皮がんに対し、がん光免疫療法の臨床試験が行われています。複合体として、EGFRタンパク質と選択的に結合する抗EGFR抗体「セツキシマブ」(製品名:アービタックス)と光感性受物質「IRDye(R)700DX」を結合させた「ASP-1929」が使われています。

 従来から悪性中皮腫での発現が報告されている「ポドプラニン」をターゲットとした抗体薬NZ-1を、東北大学の加藤幸成教授らのグループが開発。今回の研究においては、NZ-1と水溶性光感受物質である「IRDye(R)700DX」の複合体を合成し、「NZ-1-IR700」を作製しました。

 ヒトの悪性胸膜中皮腫のがん細胞を用いて、近赤外光線免疫療法を実施したところ、近赤外光の照射後、速やかに細胞の膨張、破裂、細胞死が見られました。また、標的細胞と非標的細胞を共培養し同時に近赤外光を照射したところ、標的細胞のみに細胞死がおこり、非標的細胞では影響がなかったことが確認されました。マウスによる実験でも、NZ-1-IR700を経静脈投与することで腫瘍部位に充分に薬剤が到達することが確認され、近赤外光を照射したところ顕著な腫瘍縮小効果が得られました。

 今後の展開として、研究グループは次のように述べています。

 「ポドプラニンを標的とする悪性中皮腫に対する近赤外光線免疫療法の効果を細胞実験と動物実験で確認しました。また、ポドプラニンが白人と日本人の中皮腫がん細胞に人種を超えて広く発現していることも確認できました。本研究は近赤外光線免疫療法を人の悪性中皮腫治療へ応用する際、基礎的知見として貢献することが期待されます。本研究では、NZ-1によって免疫染色による組織診断から、NIR-PITによる治療まで、同一の抗体によって行えることが証明でき、診断から、悪性中皮腫のポドプラニンの発現確認と、それに引き続く治療へとの流れを創設することができました。最近、さらに選択的にがん細胞のポドプラニンを認識することができるcancer-specific monoclonal antibody(CasMab)技術を用いた新世代の抗体が、東北大学の加藤幸成教授らにより開発されています。現在、CasMabをNIR-PITに応用することで、さらに選択性の高い治療を目指しています。今後、胸部腫瘍に対する新しい近赤外光の照射デバイスの開発や従来の治療との併用など、さらなる応用が検討されています」