日本人の胃がんリスクとなる遺伝的背景と生活習慣とは
2020/05/20
文:がん+編集部
大規模なゲノム解析により、日本人の胃がんリスクとなる遺伝的背景と生活習慣の関係が明らかになりました。
アルコール分解のできない遺伝子型、飲酒と喫煙の生活習慣が胃がんリスクを高める
東京大学は5月8日、大規模な人種横断的胃がんゲノム解析により、アジア人特有のアルコール分解酵素「ALDH2」遺伝子多型と飲酒・喫煙習慣との組み合わせにより、胃がんリスクが高くなることを明らかにしたと発表しました。同大先端科学技術研究センターゲノムサイエンス部門の鈴木章浩指導委託大学院生(研究当時)、油谷浩幸教授および大学院医学系研究科衛生学分野の加藤洋人准教授、石川俊平教授らの研究グループによるものです。
研究グループは、319人のアジア人、212人の非アジア人を合わせた531人の胃がん患者さんを対象に大規模なゲノム解析を行い、体細胞ゲノムの変異パターン、胚細胞バリアント(親から子に受け継がれるゲノム配列の個人差)、生活習慣とそれらの関連性を調べました。
その結果、アルコールを原因とする特徴的なゲノム変異のパターン(変異シグネチャ)が見られる症例がアジア人に特異的に認められ、日本人の胃がんに限った解析(解析対象243人)では、6.6%に認められました。これらの胃がん症例では、東アジア人特有のアルコール分解ができない遺伝子型「ALDH2遺伝子多型」が認められ、飲酒と喫煙習慣が重なったときに相乗的に変異数が増えていました。また、胃がんの原因となる胚細胞レアバリアントを調べたところ、E-カドエリン遺伝子上に多いことがわかり、E-カドエリン遺伝子変異のある胃がん患者さんの大部分が、びまん型胃がん(スキルス胃がん)でした。
このことから、東アジア地域特有のALDH2遺伝子多型と飲酒・喫煙習慣との組み合わせ、E-カドへリンの病的胚細胞バリアントが重なることが、日本人の胃がんの原因の一部として強く示唆されます。特にびまん型胃がん症例の21.0%は、上記のどちらかの寄与があるという結果でした。今回の研究成果により、胃がんのハイリスク群を遺伝的素因によって絞り込み、生活習慣改善の介入などによる胃がん予防が期待されます。