抗がん剤抵抗性の新規メカニズムを発見、薬剤抵抗性がん細胞が抗がん剤により増殖
2021/04/12
文:がん+編集部
がん細胞が抗がん剤抵抗性を獲得する新たなメカニズムが解明されました。抗がん剤治療により変異したがん細胞は、抗がん剤により、かえってがん細胞の増殖を促進する場合もあることが明らかになりました。
チロシンキナーゼ阻害薬の長期投与で、一部のがん細胞に治療薬が増殖を促進する変異が生じる可能性も
京都大学は3月25日、薬剤抵抗性のがん細胞が抗がん剤による治療で、かえってがん細胞の増殖を促進するという新たな抗がん剤抵抗性のメカニズムを解明したと発表しました。同大学医学部・医学研究科の樋口牧郎研究員、渡邊直樹教授、高折晃史教授らの研究グループによるものです。
研究グループは、がん細胞の増殖を促進すると考えられている「c-Src」と呼ばれる酵素(チロシンキナーゼ)に注目。チロシンキナーゼの阻害薬は、非小細胞肺がんの遺伝子変異に対する分子標的薬など数多く開発されています。今回、研究グループは、チロシンキナーゼ阻害薬が、がん細胞のc-Srcと結合することで、c-Srcの分子構造を活性型に変化させることを発見しました。さらに、治療抵抗性を獲得したc-Srcに対し、チロシンキナーゼ阻害薬は効果がなくなるだけではなく、変異したc-Srcを活性化し、かえってがん細胞の増殖を促進することが判明しました。
研究グループは今回の研究成果について、次のように述べています。
「今回の研究により、阻害薬によるc-Srcシグナルの逆説的活性化機構は、多目標キナーゼ阻害薬ががん治療において十分な効果を示していないことの要因である可能性が示唆されました。これまで一般に、薬剤抵抗性変異は阻害薬を単に無効化するものと捉えられてきました。しかし、今回、阻害薬と結合しにくくなる変異が標的チロシンキナーゼに生じると、阻害薬が逆説的にチロシンキナーゼを活性化しうることが明らかにされました。このことは、チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性を示すがんに対する治療戦略を考え直す必要があることを示しています。現時点では、臨床においてc-Srcの変異による治療抵抗性はほとんど確認されていませんが、阻害薬による逆説的な細胞増殖シグナルの活性化は、c-Src以外酵素(キナーゼ)の変異を介する可能性も考慮していく必要があります。キナーゼ阻害薬を長期に用いた場合などにおいて、一部のがん細胞に治療薬が増殖を促進する変異が生じる可能性を注意深く調査することが、今後は必要となると考えられます」