遺伝的がんリスク体質の人は若くしてがんになりやすい

2022/11/30

文:がん+編集部

 遺伝的がんリスク体質を持つ人は若い年齢でがんを発症し、がんに蓄積している体細胞異常が少ないことが判明しました。

遺伝的がんリスク体質を持つ人のがん予防や個別化医療の実現に貢献する研究成果

 大阪大学大学院医学系研究科・医学部は2022年10月27日、遺伝的がんリスク体質の人は若くしてがんになりやすい というがんの特性を解明したことを発表しました。同大学大学院医学系研究科の難波真一博士課程学生、岡田随象教授、国立がん研究センター研究所の斎藤優樹特任研究員、片岡圭亮分野長らの研究グループによるものです。

 がんの発症には、加齢・喫煙・放射線暴露などさまざまな「環境因子」が関与することが知られていますが、各個人の「遺伝因子」も重要であることが知られています。近年、多くの人が持つヒトゲノム配列上に存在する個人差である「バリアント」のうち数百〜数千個が、がんへのかかりやすさに影響を与えることがわかってきました。これらのバリアントは、個々のバリアントががん発症に与えるリスクは小さいものの、多くの人々がこれらのバリアントを有していることが知られており、ゲノム全体にある多数のバリアントをまとめて考えた場合のがん発症リスクは大きいことが知られています。そのため、これらのバリアントをまとめて評価することにより、「がんになりやすい遺伝的な体質(遺伝的がんリスク体質)」を評価できると考えられます。

 研究グループでは、さまざまな種類のがんに対して複数の計算手法を用いてポリジェニック・リスク・スコア(PRS)を構築。PRSは、ゲノム全体のバリアントをまとめて評価し、「遺伝的がんリスク体質」を反映する指標です。今回の研究では、33万5,048人の大規模データを用いてPRSがどれだけ精度良くがんの発症を予測できるかを評価することで、遺伝的がんリスクを強く反映する高精度なPRSを7種類のがん(乳がん、子宮体がん、前立腺がん、膠芽腫、卵巣がん、大腸がん、食道がん)に対して選定。詳細ながんの情報が存在するゲノムデータ2,924人についてPRSの値を計算することで、遺伝的がんリスクががんの特性に与える影響が網羅的に評価されました。

 その結果、どの種類のがんであってもPRSが高いほどがんの発症年齢が若いことが判明しました。この結果は、遺伝的がんリスク体質の人は若い年齢でがんになりやすいことを示しています。また、PRSが高いほど体細胞変異の蓄積(総体細胞変異数)が少ないことがわかりました。

 また、ドライバー変異の数や個々のドライバー変異の有無については、PRSとの有意な関連はみられませんでした。これらの結果は、遺伝的がんリスク体質であるからといって、必ずしもがんの発症に必要なドライバー変異が少なくなるわけではないことを示唆しています。

 研究グループは本研究成果の意義として、次のように述べています。

 「本研究成果によって、遺伝的がんリスク体質を持つ患者さんのがんの特性がはじめて解明されました。遺伝的がんリスク体質に対する理解をさらに深めることで、遺伝的がんリスク体質を持つ人のがん予防や個別化医療の実現に貢献すると考えられます」