がんによる総経済的負担は約2兆8000億円
2023/08/28
文:がん+編集部
がんによる医療費や労働力損失といった社会の経済的負担が推計され、予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担から、がん予防の経済効果が明らかになりました。
予防可能な5つリスク要因の中で「感染」「能動喫煙」に起因するがんの経済的負担が大きい
国立がん研究センターは2023年8月2日、がんそのものによる経済的負担と予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計し、がん予防の経済効果を明らかにしたことを発表しました。同研究センターがん対策研究所予防研究部を中心とした研究グループによるものです。
がんに罹患する人が増加傾向にある中、がんの原因に対し適切な対策や予防を行うことで、がん関連の医療費や労働損失を回避することが可能になると考えられます。
研究グループは、予防可能ながんによる経済的負担を推計し、がん予防による経済効果がどの程度になるかを明らかにするために、直接医療費および間接費用(死亡および罹患による労働損失)を、社会的視点から算出。全国99.9%の病院や診療所の診療報酬情報をカバーする「レセプト情報・特定健診等情報データベース」の集計表を用いて、2015年時点のがん患者数や直接医療費を算出しました。
その結果、がんにおける直接医療費と推計の労働損失から算出された総経済的負担は約2兆8597億円でした。うち男性は約1兆4946億円、女性は約1兆3651億円と性別による大きな差はないことがわかりました。労働損失が最も大きかったがんは、男性が肺がんで約921億円、女性が乳がんで約2326億円でした。
また、生活習慣や環境要因といった予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担は、男性で約6738億円、女性で約3502億円、合計約1兆240億円で、そのうち男女ともに胃がんの経済的負担が最も高く(男性約1393億円、女性約728億円)、次いで男性は肺がん(約1276億円)、女性は子宮頸がん(約640億円)の順に高いことがわかりました。
さらに、5つの予防可能なリスク要因別(能動喫煙、飲酒、感染、過体重、運動不足)の経済的負担のうち、「感染」による経済的負担が最も高く約4788億円で、がん種別にみるとヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんが約2110億円、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がんが約640億円と推計されました。能動喫煙による経済的負担が全体で約4340億円、うち肺がんが最も高く約1386億円、飲酒は約1721億円になることがわかりました。
研究グループは展望として、次のように述べています。
「本研究によって、予防可能なリスク要因において「感染」と「能動喫煙」に起因するがんの経済的負担が大きく、なかでもワクチン接種や治療という選択肢がある「感染」は、多額の経済的負担を回避できる可能性が示唆されました。2022年より積極的接種勧奨が再開された子宮頸がんワクチン接種のさらなる積極的勧奨を行うこと、肝炎ウイルスに感染している場合の治療やヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療を検討すること、定期的な健診・検診の受診勧奨を行うこと、たばこ対策を強化することなど、予防可能なリスク要因に対し適切な対策を実施し、予防・管理することは、命を救うだけでなく、経済的負担の軽減にもつながることが期待されます」