長鎖非翻訳RNAの1つ「TUG1」が、がん細胞のDNAを損傷から保護するメカニズムを解明

2023/09/13

文:がん+編集部

 タンパク質に翻訳されない長いRNA(長鎖非翻訳RNA)である「TUG1」が、がん細胞のDNAを損傷から保護し増殖を助けることが明らかになりました。TUG1が高発現する難治性のがん、グリオブラストーマに対する臨床試験へ向けた準備が進められています。

悪性脳腫瘍グリオブラストーマに対する臨床試験を開始予定

 名古屋大学は2023年8月23日、長鎖非翻訳RNAが、がん細胞のDNAを損傷から保護するメカニズムを解明したことを発表しました。同大学大学院医学系研究科・腫瘍生物学分野の近藤豊教授、鈴木美穂助教、飯島健太助教、同分子腫瘍学分野の鈴木洋教授らの研究グループによるものです。

 がん細胞は活発に分裂し増殖するため、素早くDNAをコピーする必要がありますが、がん細胞は正常な細胞と比べてDNAの変異や異常などの障害が多く、DNAのコピーがうまくできずに止まってしまうことがしばしばあります。これまで、がん細胞がどのようにDNAの異常を解消し、素早くコピーを続けていくのかは不明でした。

 研究グループは、がん細胞で高発現しがんの発生・悪性化に関与していることが知られている長鎖非翻訳RNAに着目。DNAの複製に問題が生じたときに、細胞内で速やかにつくられる長鎖非翻訳RNAの1つ「TUG1」を発見しました。また、TUG1は、DNAの複製を止めてしまうようなDNAの異常な構造をがん細胞で解消する働きをもつことも判明。そこで、TUG1が高発現する難治性の脳腫瘍グリオブラストーマでTUG1を阻害すると、DNA複製が止まり、細胞死が誘導されることがわかりました。さらに、脳腫瘍マウスモデルを用いてTUG1を阻害する核酸医薬「TUG1-DDS」とグリオブラストーマの標準治療薬テモゾロミドの併用治療を行った結果、腫瘍の増殖が著しく抑制され、生存期間が劇的に改善しました。

 グリオブラストーマに対するTUG1-DDSの有効性を検討するため、2024年3月頃を目途に、名古屋大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院で医師主導臨床治験が開始される予定となっています。

 研究グループは、次のように述べています。

 「TUG1-DDSは脳腫瘍で初めての長鎖非翻訳RNAを標的とする核酸医薬であり、新規治療薬としての効果が期待されます」