肺がんを対象に、腫瘍サイズ・部位・病理学的分類に沿った体幹部定位放射線治療を評価した臨床試験の結果発表
2023/11/02
文:がん+編集部
末梢性小型肺がんを対象に、腫瘍サイズ、部位、病理学的分類に沿った線量・分割回数・日数での体幹部定位放射線治療を評価した臨床試験の結果が発表されました。
個々の肺がん(腫瘍サイズ、部位、病理学的性質)に沿った放射線治療へ期待
北海道大学は2023年9月28日、末梢性小型肺がん患者さん217人を対象に、体幹部定位放射線治療において、あらかじめ腫瘍サイズ、部位、病理学的性質に沿って定めた線量、分割回数、日数での体幹部定位放射線治療について、その有効性と安全性を評価した第2相試験の論文が、JAMA Oncology誌にオンライン公開されたことを発表しました。
体幹部定位放射線治療は、末梢性肺がんに有効ですが、肺門部や縦隔に対しては重篤な有害反応を起こす可能性があります。過去のデータでは、10ccまでの小さな末梢性肺がんであれば1回照射で安全な治療が可能とされ、中枢部肺がんや、サイズが大きい場合には、分割照射が良いことが示唆されていましたが、用いるべき具体的な線量、分割回数、日数は明確になっていませんでした。
今回の臨床試験は、3つのグループで検証。グループ1(79人)は、T1~3のリンパ節転移と遠隔転移がない新規非小細胞性肺がん、グループ2(82人)は、以前に非小細胞性肺がんに罹患した既往歴があり新たに罹患したT1~3のリンパ節転移と遠隔転移のない非小細胞性肺がんあるいは多発性肺がん、グループ3(79人)は、転移性肺がんでした。
4個までの腫瘍は1回の体幹部定位放射線治療で治療が行われました。また、照射する線量や回数は以下6つパターンに分けて決定されました。
- (1)0~10cm3の腫瘍体積の末梢性腫瘍には25Gy/1回
- (2)0~10cm3で中枢性腫瘍には40Gy/4回(1回10Gy)
- (3)0~10cm3の結腸がんからの転移には50Gy/4回
- (4)10~30cm3の腫瘍体積の末梢性/中枢性腫瘍には50Gy/4回
- (5)30cm3を超える末梢性腫瘍には54Gy/3回
- (6)30cm3を超える中枢性腫瘍には60Gy/8回
平均観察期間33か月では、平均生存期間は50か月で、285部位が治療され、9%が局所再発、そのうち65%が標的体積内、12%が辺縁、23%が同肺葉内でした。
実測1年局所非再発率は、グループ1で97%、グループ2で94%、グループ3で96%でした。実測5年局所非再発率は、3グループで83%~93%でした。
安全性に関しては、グレード3~5の有害反応発生率は5%と低く、グレード5は1%でした。極中心性腫瘍のグレード3~5の有害反応発生率は33.3%で、それ以外では3%でした。
研究グループは今後への期待として、次のように述べています。
「従来、肺がんの定位的体幹部放射線治療では、腫瘍サイズ、部位、病理学的分類に関わらず、施設ごとに、最大耐容線量以下であれば、同じ線量/分割回数/日数を用いることが標準的でした。この研究を基に、今後は、定位的体幹部放射線治療において、どの患者さんにも一律同じ線量/分割回数/日数を利用することは相応しくないと認知され、個々の患者さんの腫瘍サイズ、部位、病理学的分類に沿って、最適化されることが期待されます。この研究の弱点は、対象となる群がない点であり、すべての患者さんに同じ線量/分割回数/日数を用いる場合との正確な比較ができていません。今後の発展として、同じ患者さんに、2か所以上に腫瘍があった場合に、それぞれの腫瘍サイズ、部位によって、2か所それぞれに最適な分割回数と総線量があることが示唆されますが、その場合には、2か所間の相互作用を考慮する必要があり、制限付き最適化という高度な数理学的研究が求められます。中枢部肺がんや多発性肺がんの有害反応を減らすために、本学発の動体追跡放射線治療や実時間画像同期陽子線治療などの4次元放射線治療技術は、さらにその真価を発揮するでしょう」