複数のがんを一度に検知できる新たながんマーカー「SDF-4」を発見
2023/11/06
文:がん+編集部
複数のがんを一度に検知できる新たながんマーカーを発見。血液検査だけで、胃がんを始めとした複数のがんを早期発見できる可能性があります。
従来のがんマーカーより優れ、特に胃がんで感度89%/特異度99%の高い精度
名古屋大学は2023年9月28日、6種類のがん(胃がん、食道がん、大腸がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がん)を早期に検出できる新しい血液がんマーカーとして、「stromal cell-derived factor 4(SDF-4)」というタンパク質が高い精度を持つことを明らかにしたと発表しました。同大学大学院医学系研究科消化器外科学の小寺泰弘教授、神田光郎講師、篠塚高宏大学院生の研究グループによるものです。
胃がん、大腸がん、乳がんなどのがんを検出するための血液検査には、「CEA」や「CA19-9」といったがんマーカーが用いられてきましたが、これらのがんマーカーは、必ずしも全てのがんを正確に検出するわけではなく、その精度も満足のいくものではなかったため、より精度の高いがんマーカーの開発が求められていました。
研究グループは、最新の研究結果やデータベースを活用してがん細胞から分泌される物質を調査。大規模検診にも適応できる可能性があるタンパク質として「SDF-4」を特定しました。
実際のがん患者さんと健常者から採取した血液中のSDF-4濃度を測定したところ、がん患者さんの血液では胃がん、食道がん、大腸がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がんといったさまざまな種類のがんで高い値を示しました。特に胃がんでは、感度89%、特異度99%という従来のがんマーカーと比較して驚異的な数値を示しました。また、ステージ1の胃がん患者さんでも健常者より高い値を示し、がんの早期発見に寄与する可能性が示されました。
さらに、がん患者さんの血液中でSDF-4が上昇するメカニズムを調べるために、9種類の胃がん細胞を用いた実験を実施。胃がん細胞の培養液中のSDF-4濃度を測定したところ、経時的にSDF-4値が上昇しており、がん細胞自体がSDF-4を分泌していることが判明しました。がん細胞をすりつぶしSDF-4値を測定したところ、同様に上昇が認められたことから、がん細胞の崩壊によってもSDF-4が細胞外に放出されて、血液中に移行する可能性が示唆されました。
研究グループは今後の展開として、次のように述べています。
「胃がんを始めとした消化器がんの根治のためには、その疾患を早期に発見し、治療介入を行うことが重要となります。今回の研究はSDF-4がさまざまな種類のがんを早期に発見することにつながる新しい血液がんマーカーとなり得る可能性を示しました。今後、国際共同研究によって、より多くの患者さんを対象にSDF-4の診断精度を評価することを計画しています。また、大規模がん検診にも応用できるように、血液検体を用いてSDF-4濃度を測定する独自の検査キットの開発を目指しています」