国内の肺がん患者さんを対象に遺伝子検査の実施状況を調査した結果を発表

2024/02/14

文:がん+編集部

 国内の肺がん患者さんを対象に、遺伝子検査の実施状況を調査した結果、治療方針決定のために必要な遺伝子検査が十分に受けられていないことが判明しました。

何らかの遺伝子検査が行われていた患者さんは86.1%に対し、遺伝子パネル検査は全体の47.7%

 近畿大学は2023年12月16日、全国29の医療機関で肺がんと診断された患者さん1,479人を対象に、治療方針決定のために必要な遺伝子検査の実態を調査した結果を発表しました。同大医学部内科学教室の高濱隆幸医学部講師、鳥取大学医学部附属病院呼吸器内科・膠原病内科の阪本智宏特任助教、北九州市立医療センター呼吸器外科の松原太一医師らを中心とした研究グループによるものです。

 非小細胞肺がんは、原因遺伝子となる遺伝子変化が複数知られており、治療方針決定にあたりどの遺伝子に異常があるかを特定し、その結果に応じて分子標的薬を用いることが、「肺癌診療ガイドライン2023年版」で推奨されていますが、遺伝子検査には患者負担、検査結果にかかる時間などさまざまな課題があるため、適切な遺伝子検査を受けられていない可能性があります。

 研究グループは、肺がん患者さんの遺伝子検査実施の正確な実態把握を目的として、全国29の医療機関で非小細胞肺がんと診断された診断された患者さん1,479人を対象に遺伝子検査実施の有無を調査。その結果、86.1%の患者さんでは何らかの遺伝子検査が行われていましたが、遺伝子パネル検査とも呼ばれる複数の遺伝子を同時に検査するマルチ遺伝子検査は全体の47.7%しか実施されておらず、治療方針決定のために必要な遺伝子検査を十分に受けられていない患者さんがいることが判明しました。

 また、原因遺伝子の変化の有無と標的治療の有無に分類して、患者さんの生存期間を比較。その結果、「原因遺伝子が見つかり分子標的治療を受けた患者さん」「原因遺伝子が見つかったが対応する分子標的薬を受けられなかった患者さん」「検査の有無に関わらず原因遺伝子が見つからなかった患者」の3つのグループの生存期間を解析したところ、患者さんの生存期間中央値は、それぞれ24.3か月、15.2か月、11.0か月でした。これらの結果から、できるだけ多くの遺伝子検査が適切に実施され、その結果に基づく分子標的薬による治療が行われることが、患者さんのより良い治療成績につながることが示唆されました。

 研究者代表の高濱隆幸医学部講師は、次のように述べています。

 「肺がんの治療方針を決定するために、がんの原因遺伝子を調べて、一人一人の患者に適した治療薬を提案する、個別化医療が可能になっています。個別化医療を受けていただくためには、患者が遺伝子検査を適切に受けられるようにしなければいけません。今回の研究結果から、遺伝子検査の普及には課題も見つかりました。我々研究者は、より多くの患者が自分の病気の原因遺伝子を知り、最善の治療を受けていただけるよう、今後も協力して検査の普及と治療法の開発に取り組んで参ります」