受動喫煙、能動喫煙とは異なる肺がん遺伝子変異を誘発
2024/05/15
文:がん+編集部
受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発することが証明されました。研究成果は、受動喫煙による健康被害を防ぐ必要性を強く示唆しており、受動喫煙による肺がんの予防に役立つことが期待されます。
受動喫煙により誘発された遺伝子変異、腫瘍細胞の悪性化を促進する可能性
国立がん研究センターは2024年4月16日、受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発することを証明したと発表しました。同センター研究所ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長、白石航也ユニット長、東京医科歯科大学呼吸器内科の宮崎泰成教授、望月晶史大学院生、本多隆行学内講師らの共同研究グループによるものです。
これまで、受動喫煙は肺がんの危険因子として知られていましたが、受動喫煙と遺伝子変異の関わりは不明でした。
研究グループは、国立がん研究センター中央病院で手術を受けた女性患者さんのうち、非喫煙者291人、喫煙者(能動喫煙者)122人の肺腺がんについて、ゲノム全体にわたる変異を調査。また、患者さんに実施したアンケートから得た能動喫煙歴、10歳代と30歳代の受動喫煙歴の情報を用い、受動・能動喫煙と遺伝子変異の関係を調べました。
その結果、10歳代、30歳代のいずれか、あるいは両方で受動喫煙を受けていた(月に1~2日から毎日まで)患者さんに生じた肺がんでは、受動喫煙を受けていない患者さんの肺がんと比べて、より多くの遺伝子変異が蓄積していました。また、能動喫煙歴のある患者さんの肺がんで見られる、たばこ中の発がん物質が直接引き起こすタイプの変異は、受動喫煙歴のある患者さんの肺がんではごくまれにしか見られないことがわかりました。
受動喫煙はドライバー変異の頻度には影響していなかったため、ゲノム・全RNAシークエンスを用いて、10歳代、30歳代のいずれか、あるいは両方で毎日受動喫煙を受けていた患者さんの肺腺がんについて調査を実施。その結果、受動喫煙歴のある患者さんの肺がんでは変異誘発活性を持つAPOBEC3B遺伝子の発現が高まっており、APOBECタンパク質により生じたと考えられるタイプの変異が増加していることが分かりました。さらに、受動喫煙により誘発された変異の多くは、腫瘍細胞の発生そのものではなく、その後に不均一性(多様性)を増加させることで初期の腫瘍細胞の悪性化を促進していることが推察されました。
研究グループは今後の展望として、次のように述べています。
「本研究において、受動喫煙によって変異が誘発されるメカニズムが明らかになったことで、炎症を抑えるなど、受動喫煙に対する新たな肺がん予防法が今後開発されていくことが期待されます。受動喫煙と肺がんとの関連はこれまで科学的に確立されていましたが、本研究によりその科学的根拠がさらに強固になったと言えます。日本では改正健康増進法の下でも経過措置の形で屋内全面禁煙が十分に普及していません。受動喫煙による健康被害を防ぐために、国際的に標準となっている屋内全面禁煙の法制化が望まれます」