CAR-T細胞療法の効果と安全性を同時に高める人工遺伝子の開発に成功

2024/05/22

文:がん+編集部

 CAR-T細胞療法の効果と安全性を同時に高める人工遺伝子が開発されました。

従来のCAR-T細胞と比較して高い増殖力と優れた治療効果、複数のがん治療モデルを用いた実験で確認

 慶應義塾大学は2024年4月26日、がんに対する免疫療法であるCAR-T細胞療法の効果と安全性を同時に高める人工遺伝子の開発に成功したことを発表しました。同大学医学部先端医科学研究所がん免疫研究部門の籠谷勇紀教授、吉川聡明助教らとタカラバイオ株式会社の共同研究グループによるものです。

 CAR-T細胞療法では多くの場合、注射されたCAR-T細胞ががん細胞を完全に消し去る前に消えてしまい、効果が持続しません。また、逆に効果が高かった患者さんではCAR-T細胞の過剰な増殖によりサイトカイン放出症候群と呼ばれる重い副作用が起こることがあり、有効性と安全性の両面で改良が課題とされていました。

 研究グループは、CAR-T療法の副作用を抑えながらその治療効果を高めるため、サイトカイン放出症候群に関わるサイトカインIL-6を吸着する受容体と、T細胞が長期間生きながらえるために重要なサイトカインであるIL-7受容体をつなぎ合わせた人工遺伝子を開発。この人工遺伝子をCARとは別にT細胞に導入することで、人工サイトカイン受容体を搭載したCAR-T細胞を作製しました。

 今回開発された人工サイトカイン受容体を搭載したCAR-T細胞は、副作用に関わる血液中のIL-6を減らすとともに、現在用いられているCAR-T細胞と比較して高い増殖力を持ち、優れた治療効果につながることが複数のがん治療モデルを用いた実験で確認されました。

 また、この人工遺伝子はあらゆるCAR-T細胞に搭載することが可能で、今後幅広い種類のがんに対して治療効果と安全性に優れたCAR-T細胞の開発につながることが期待されます。