第3の免疫チェックポイント分子「LAG-3」による新たな免疫抑制メカニズムを発見

2024/10/09

文:がん+編集部

 免疫チェックポイント分子「LAG-3」による新たな免疫抑制メカニズムが発見されました。

抗LAG-3抗体、より効率的かつ安全性の高い投与法の開発につながることが期待

 東京医科大学は2024年8月27日、LAG-3による新たな免疫抑制メカニズムを発見したことを発表しました。同大学免疫学分野の横須賀忠主任教授、若松英講師らを中心とする研究グループによるものです。

 PD-1CTLA-4などの免疫チェックポイント分子を標的とした免疫チェックポイント阻害薬が2014年以降、国内で承認されてきましたが、これらの免疫チェックポイント阻害薬が、全ての患者さんに有用というわけではありません。そのため、免疫チェックポイント阻害薬同士およびほかのがん治療との併用、PD-1やCTLA-4に次ぐ第3の免疫チェックポイント分子を阻害する薬剤の開発が進められています。第3の免疫チェックポイント分子としてLAG-3を標的とした阻害薬が抗PD-1抗体との併用で米国食品医薬品局に承認されましたが、PD-1やCTLA-4と異なり、その免疫抑制メカニズムは十分に理解されていませんでした。

 研究グループは、T細胞上のLAG-3の動きを解析するための新たな実験系を確立。LAG-3とその相手方となるMHCクラスII(MHC-II)が結合した分子の集合体を、世界で初めて可視化することに成功しました。

 実験の結果、LAG-3が発現しているT細胞は、LAG-3が発現していないT細胞や、LAG-3に変異がある細胞と比べて、より多くのMHC-IIを取り込むことがわかりました。また、LAG-3を持つT細胞と抗原提示細胞を一緒に培養すると、抗原提示細胞の表面にあるMHC-IIの量が減少していることも判明。これらの結果から、T細胞がLAG-3を介して細胞の表面に発現する分子を取り込む「トランスエンドサイトーシス」というメカニズムにより、抗原提示細胞からMHCクラスII分子を奪い取るという全く新しい免疫調節メカニズムを発見することに成功しました。

 また、LAG-3によってMHCクラスIIが奪い取られた抗原提示細胞は、T細胞の活性化ができなくなるだけでなく、病原性CD4陽性T細胞による大腸炎の進行を抑えられる可能性も示されました。

 研究グループは今後の研究展開および波及効果として、次のように述べています。

 「抗LAG-3抗体が一昨年に難治性のがん患者さんへの治療として米国で承認され、今後、日本でも現在使用されている免疫チェックポイント分子阻害抗体(ICB)との併用療法が現実的になってきました。しかし、LAG-3自身の免疫抑制作用が理解されない状況は抗LAG3抗体を投与する患者さんの選定や、複合免疫療法などの可能性を考慮する際の科学的な根拠が欠けているだけでなく、抗体投与によって発生する副作用の予測も十分には行えないことが予想されます。これまで、がん免疫において抗LAG-3抗体はCD8T細胞を活性化することでがんの縮小につながると考えられてきましたが、本研究結果から、CD8T細胞だけでなくCD4T細胞の活性化も誘導できる可能性が示されました。これらの結果は、抗PD1抗体およびそれ以外のICBや化学療法を併用する際の選定の一助となり、またCD4T細胞による炎症が副作用として発生する可能性を事前に考慮する根拠となることが予想されます。それにより、今後、抗LAG-3抗体をがん患者さんに使用する際に、より効率的かつ安全性の高い投与法の開発につながることが期待されます」