前立腺がんの「小線源療法」治療の進め方は?治療後の経過は?

監修者斉藤史郎(さいとう・しろう)先生
国立病院機構東京医療センター 泌尿器科医長
1956年東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒。1992年、米ニューヨークのMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerに3年間留学。帰国後、慶應義塾大学医学部泌尿器科講師を経て、1997年から現職。2003年9月、日本で初めてヨウ素125を用いた密封小線源永久挿入療法を実施。国内における前立腺がんの小線源療法の普及に貢献、その指導的立場にある。

本記事は、株式会社法研が2011年7月24日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 前立腺がん」より許諾を得て転載しています。
前立腺がんの治療に関する最新情報は、「前立腺がんを知る」をご参照ください。

前立腺のなかからがんに放射線を当てる

 放射線を出す細く短い金属(線源)を前立腺に入れる治療法です。周辺臓器への照射量を抑えることができ、合併症を少なくできます。

健康保険が適用され年間3000例の実績

小線源療法の特徴

 小線源療法は放射線療法の一種です。放射線を出す小さな線源を前立腺に入れる治療法で、高い線量の線源(イリジウム)を一時的に刺し入れる方法と、低い線量の線源(ヨウ素)を永久に埋め込む方法(密封小線源永久挿入療法)があります。現在、小線源療法の多くは後者の形で行われているので、ここでは小線源療法といえば、後者を指す言葉として使うことにします。
 小線源療法のメリットは、切らずに前立腺がんを治せることで、治療効果は手術療法と同じレベルにあります。入院期間も3泊4日程度ですみます。開腹手術(前立腺全摘除術)の場合は、2週間程度の入院が必要なので、これも大きなメリットといえるでしょう。
 また、放射線を体外から当てる外照射に比べて、尿道や直腸など前立腺のなかや周辺にある正常な臓器に及ぼす影響が少ないため、排尿障害や性機能障害(勃起(ぼっき)障害=ED)などの合併症を少なくできるのも利点です。
 前立腺の内側から放射線療法を行う小線源療法は組織内照射、あるいは内照射と呼ばれることもあります。体外から放射線を当てる外照射と区別するためです。
 小線源療法は英語でブラキーセラピー(brachytherapy )といいます。ブラキーは“短い”という意味で、線源と目標とする組織までの距離が短いことから、この名があります。
 前立腺がんに対する小線源療法は、アメリカでは、1990年ごろから盛んに行われていましたが、日本では2003年から治療が認可され、健康保険も適用されるようになっています。
 上のグラフは小線源療法を実施している施設の数と年間に何例の治療が行われているかを示すものです。
 2003年に私の勤務する施設(国立病院機構東京医療センター)で初めてヨウ素125を使った小線源療法が実施されました。今では全国の100を超える施設で実施されています。また、年間治療件数も2009年以降は毎年3000例を超えています。
 他施設に先駆けてこの治療を始めた当施設では、これまでの累計治療件数が1500例を突破しました。かなり普及した治療法となっていることがわかると思います。

小線源療法を受けられる施設数・治療件数、東京医療センターの治療件数

埋め込まれた線源が放射線を放出

放射線を出すカプセルを前立腺に埋め込む

ヨウ素125とは?

 前立腺がんの小線源療法では、放射線を出す線源としてヨウ素125を使います。普通のヨウ素は放射線を出しませんが、ヨウ素125は放射線を出す性質があり、これを利用して治療に使っています。
 実際に治療に使われているのは、シード線源と呼ばれるもので、ヨウ素125を化学的に結合させた銀の短い線をチタン製のカプセルに密封してあります。
 シード線源は、長さ約4.5mm、直径0.8mmで、見た目は短いシャープペンシルの芯のようなものです。
 ヨウ素125の出す放射線の半減期は約60日です。半減期とは放射線を出す量が半分に減るのにかかる日数のことです。
 つまり、ヨウ素125を使った線源の放射線量は2カ月ごとに半分に減っていくことになり、この結果、1年後には放射線の影響はほとんどなくなります。
 数十~100個の線源は役目を終えたあとも前立腺に埋め込んだままにしておきます。埋め込んだままにしておいても、とくに害はありません。

リスク分類では低リスクで転移のないものが適応

小線源療法の実施施設状況

 小線源療法が単独で実施できるのは、がんがまだ前立腺の内部にとどまっている状態で、転移や浸潤(しんじゅん)(がんが外側の組織に広がっている状態)がないものということになります。
 リスク分類でいうと低リスクのものです。厳密には、低リスクの定義である「(1)PSA値が10 ng/mL未満、(2)グリソンスコア6以下、(3)病期はT1cあるいはT2aまで、といった3条件をすべて満たす」ものになります。
 ただし最近は、中リスクや高リスクの場合でも、小線源療法に外照射を併用したり、小線源療法に外照射とホルモン療法を併用したりして治療することも増えてきています。
 中リスクや高リスクの患者さんに対する小線源療法を用いた治療は、アメリカでは初期より行われており、良好な治療結果が出ています。

治療の進め方は?

 三次元的な放射線量分布図を作成し、線源の位置や使用個数のプランを立てます。プランを確認しながら、線源を挿入していきます。