前立腺がんのステージ診断と推奨される治療法 PSA値、グリソンスコア、T分類を総合的に評価

2018.1 取材・文 柄川明彦
PSA検診が普及することで、早い段階で発見される前立腺がんが増えています。確定診断のためには生検が必要で、前立腺がんが見つかれば、採取した組織を調べ、グリソンスコアで悪性度を評価します。さらに、がんがどこまで広がっているかにより、限局性がん、局所進行がん、転移性がんに分類。がんが転移してない場合の治療選択では、がんの広がりに加え、がんのリスク分類を考慮します。PSA値、グリソンスコア、T分類(がんの進展度)から、低リスク、中リスク、高リスクに分類します。PSA値、グリソンスコア、T分類を総合的に評価した上で、監視療法、手術療法、放射線療法、ホルモン療法を選択します。がんが転移している場合には、ホルモン療法や化学療法が選択されます。前立腺がんの治療選択では、治療に伴う合併症や治療期間なども考慮し、自分の生活に合った治療法を選択することも大切です。
PSA検査で前立腺がんの疑いがあれば、生検や画像検査
前立腺がんでは、多くの人の中からがんの可能性が高い人を選び出すスクリーニングとして、PSA検診が行われています。この検査が普及することで、早い段階で見つかる前立腺がんが増えています。
アメリカでは「PSA検診はやめるべき」という声もあり、転移性がんの割合が増えてきました。そこで2017年に方向転換し、「PSA検診の利益と不利益に関する説明を受け、受けるかどうかを決定すべき」というスタンスに変わってきています。
日本では、基本的に50歳以上の人は、利益と不利益を十分に理解した上でPSA検診を受けることを推奨しています。1回検査を受け、結果が1.0ng/ml以上なら毎年、1.0ng/ml未満なら3年毎に再検査を受けることが推奨されています。親や兄弟などに前立腺がんになった人がいる場合には、比較的若い年齢で発症する可能性があるので、40歳代から検査を受けることが勧められます。
PSA検査で前立腺がんが疑われる場合に、超音波ガイド下針生検が行われます。超音波画像を見ながら前立腺に生検用の針を刺し、前立腺のいろいろな部位からランダムに組織を採ってきます。針の本数は、施設ごとに異なりますが、10本、12本、14本などが一般的です。この検査でがんが見つかれば、前立腺がんと診断されます。
前立腺の中にあるがんは、CTやMRIなどの画像検査ではっきり見ることができませんでしたが、最近はMRIが進歩し、前立腺内のがんが見えることが多くなってきました。そこで、MRI画像で見えるがんをターゲットにして、針を刺すことも行われるようになっています。
がんであることが明らかになったら、次に考えるのは、がんがどこまで広がっているのか、転移があるのか、ということです。それを調べるために、CT検査や骨シンチグラフィーなどが行われます。前立腺がんは骨に転移しやすいのですが、骨シンチグラフィーは骨転移を見つけるのに役立ちます。
がんがどこまで広がっているかによって、前立腺がんは、限局性がん、局所進行がん、転移性がんに分けられます。限局性がんは前立腺の中に止まっているがんです。がんが前立腺の被膜を越え、周囲の組織や隣接する臓器にまで広がっている場合を局所進行がんといいます。転移性がんは、リンパ節や遠隔臓器に転移している場合をいいます。転移があるかないかで、選択できる治療法が大きく異なります。
前立腺がんのリスク分類は、PSA値、グリソンスコア、T分類で総合的に判断
転移がない場合には、治療法を選択するためにリスク分類を行います。PSA値、グリソンスコア、T分類といった要素を考慮して、低リスク、中リスク、高リスクの3つに分類します。
グリソンスコアは、生検で採取したがん組織の悪性度を調べ、点数化したものです。最も多い組織像と2番目に多い組織像について、正常組織に近い場合を1点、最も悪性度の高い組織を5点とする5段階で評価し、その点数を合計します。この数値がグリソンスコアです。
T分類はがんの進展度を表しています。T1は触診できず、画像では見えないがんです。
そのうち、切除組織が5%以下をT1a、切除組織の5%超をT1b、針生検で確認できるものをT1cと分類します。
T2は前立腺に限局するがんです。前立腺の片側の1/2以内をT2a、片側1/2超をT2b、両側に進展しているものをT2cと分類します。
T3は前立腺の被膜を越えて周囲に進展するがんです。被膜外へ進展しているものをT3a、精嚢に浸潤しているものをT3bと分類します。
T4は精嚢以外の隣接する臓器に浸潤するがんです。
低リスクに分類されるのは、「PSA値が10ng/ml未満」、「グリソンスコアが6以下」、「T分類がT1かT2a」の場合です。この3つの条件をすべて満たす場合に、低リスクと判定されます。
高リスクに分類されるのは、「PSA値が20ng/mlを超える」、「グリソンスコアが8~10」、「T分類がT3~T4」の3つの条件のうち、どれか1つでも当てはまれば高リスクと判定されます。
中リスクに分類されるのは、低リスクにも高リスクにも当てはまらない場合です。
転移のない前立腺がんの治療選択については、限局性がんを、低リスク、中リスク、高リスクの3つに分け、局所進行がんを超高リスクと考えると、わかりやすくなります。
グリソンスコア―がん組織の悪性度―
Epstein.JJ.et al:Am.J.Surg.Pathol.29(9):1228~1242.2005
T分類―がんの進展度―
T1 蝕知不能、または画像では診断不可能 | ||
---|---|---|
T1a | T1b | T1c |
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切除組織の5%以下 | 切除組織の5%超 | 針生検により確認 |
T2 前立腺に限局するがん | ||
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T2a | T2b | T2c |
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片側1/2以内 | 片側1/2超 | 両側に進展 |
T3 被膜を超えて進展するがん | ||
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T3a | T3b | |
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被膜外への進展(片側、両側)、顕微鏡的な膀胱頸部への浸潤含む |
T4 | TX | T0 |
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精嚢以外の隣接組織に固定または浸潤 | 原発癌の評価が不可能 | 原発癌を認めない |

転移していなければ、監視療法、手術療法、放射線療法、ホルモン療法からの選択
転移がない場合の治療法としては、監視療法、手術療法、放射線療法、ホルモン療法から選択されます。ホルモン療法は、補助的にプラスすることがあります。
監視療法は、積極的な治療は行わず、定期的に生検を行いながら経過を監視していく方法です。基本的には限局性がんで低リスクの前立腺がんが対象になります。ただ、高齢で期待できる余命が10年以下のような場合には、監視療法が推奨されます。日本人の各年齢の期待余命は、厚生労働省が発表しています。
積極的に治療する場合には、手術療法と放射線療法のどちらも選択することができます。
手術方法には、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術といった方法があります。放射線療法には、放射線を体の外から照射する外照射と、体の中に線源を入れて内側から照射する組織内照射があります。
放射線療法は、前立腺がんのリスク分類に応じてホルモン療法を併用します。低リスクであれば放射線療法単独ですが、中リスクと高リスクの場合はホルモン療法を併用します。ホルモン療法の期間は施設によって異なりますが、当院では、中リスクの場合には6か月間、高リスクの場合には2年間です。
手術療法にも放射線療法にも一長一短があり、どちらが優れているとは言い切れません。手術には手術のメリットがあり、放射線療法には放射線療法のメリットがあります。治療効果では明確な差はないため、重視したい合併症を考慮して選ぶこともできますし、治療期間や通院回数などを考慮して治療法を選ぶこともできます。
画像診断でがんが前立腺の一部にできていることが明らかな場合には、部分的に治療するフォーカルセラピーという方法もあります。フォーカルセラピーで行われるのは、HIFU(高密度焦点超音波)や小線源療法です。HIFUは超音波をがんに集中させ、高温にして焼いてしまう治療法です。前立腺を残すことによって、尿もれなどの排尿障害や性機能障害が軽減されると考えられています。まだ研究段階の治療ですが、MRIが進歩し、前立腺内のがんがかなり見えるようになったことで現実的になってきました。ただし、治療していない前立腺の領域があるため、確認できないがんがあった場合は、不完全な治療になる可能性があるため、慎重に考慮する必要があります。
転移がある前立腺がんに対する治療選択は、ホルモン療法と化学療法
転移がある場合に選択できる治療法はホルモン療法と化学療法です。ホルモン療法では、精巣からの男性ホルモンの分泌を抑えるLH-RH製剤や、男性ホルモンが前立腺がん細胞に作用するのを防ぐ抗アンドロゲン剤を使用します。この2種類の薬を組み合わせるCAB療法が、最も強力な治療法とされてきました。
ホルモン療法に関しては、最近になって新しい研究結果が報告されています。従来は、ホルモン療法を行い、それで十分な効果が得られなくなってから、抗がん剤のドセタキセルを併用する治療が行われていました。しかし、1次治療における「ホルモン療法単独群」と「ホルモン療法+ドセタキセル群」の比較試験が行われ、最初から抗がん剤を併用したほうがよいというデータが出てきました。欧米ではこの治療法が標準治療になりつつありますが、日本では健康保険でまだ認められていません。
また、新規ホルモン剤のアビラテロン(製品名:ザイティガ)は、ホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんの治療に使われていますが、ホルモン療法の最初から使用すると生存期間が長くなるという臨床試験の結果が報告されています。
新しい薬剤は優れた効果が認められていますが、医療費が高額になるという問題点があります。前立腺がんは患者数が多く、治療期間も長いため、高額な医薬品が日本の保険医療を圧迫することになるのではないかと危惧されています。そのため、前立腺がんが進行し転移する前に治療することが、患者さん本人にとっても、社会にとっても、大きなメリットがあるため、50歳を過ぎたらPSA検診を受けていただきたいと思います。
プロフィール
赤倉 功一郎(あかくらこういちろう)
1984年 千葉大学医学部卒業
1990年 カナダ・ブリティッシュコロンビア癌研究所留学
2002年 東京厚生年金病院泌尿器科部長(現JCHO東京新宿メディカルセンター)
2015年 JCHO東京新宿メディカルセンター副院長・泌尿器科部長