子宮体がん、初回治療の進行期別治療選択と再発したときの治療
2018.3 取材・文 柄川明彦
子宮体がんの治療は、画像検査などから推定される進行期に従って、多くの症例で手術が第一選択となっています。子宮の奥に発生する子宮体がんは、手術によってがんがどこまで広がっているか確認し、病理検査を行うことで進行期分類や再発リスク分類が行われ、それに応じて手術後の治療が選択されます。子宮体がんの初回治療の進行期別の治療選択と再発したときの治療に関して解説します。
子宮体がんの特徴と確定診断のための病理組織検査
子宮にできるがんには、子宮頸がんと子宮体がんがあります。子宮頸部は子宮の入り口部分で、子宮体部はその奥の部分です。子宮体がんは、主に子宮体部の内側を覆っている子宮内膜から発生します。
閉経後の女性に多いのが特徴です。若い年代で発症することもありますが、好発年齢は50代~60代です。70代で見つかることもよくあります。子宮頸がんの好発年齢に比べると、やや高い傾向にあります。
子宮体がんには、女性ホルモンのエストロゲンが関与するタイプと、関与しないタイプがあります。閉経前に発症するがんは、エストロゲンが関与することがわかっています。一方、閉経後に発症する子宮体がんは、多くはエストロゲンが関与しないタイプです。
子宮体がんが発見される典型的なケースは、不正性器出血があって婦人科を受診し、検査を受けて判明するというものです。その他に、超音波検査を受けたときに、子宮内膜が厚くなっている所見が見つかり、病理検査を受けて判明するというケースもあります。
子宮体がんの検査としては、子宮内膜の細胞診検査や病理組織検査などがあります。細胞診検査は、細いチューブ状の器具で子宮内膜の細胞を採取し、それを顕微鏡で調べます。病理組織検査は、子宮内膜の組織の一部を採取し、それを顕微鏡で調べる検査で、多少痛みを伴う場合があります。子宮体がんと確定診断を下すためには、この病理組織検査が必要です。
子宮体がんが強く疑われるにも関わらず、病理組織検査を行ってもがんの診断がつかない場合には、子宮鏡検査を行い、同時に病理組織検査を再度行います。子宮鏡は子宮の内側を観察するための内視鏡です。子宮鏡検査では病変部を確認し、そこから組織を採取することができます。その際、子宮内膜の全面掻把という方法もあります。全面掻把をすれば、がんがどこにできていても、見逃すことが少なくなります。全面掻把する場合は、痛みが強いので麻酔を使用するのが一般的です。
子宮体がんの最終的な治療方針を決定する手術進行期分類と手術法
子宮体がんと診断された場合、CT検査やMRI検査を行い、がんがどこまで広がっているかを調べます。がんが子宮体部にとどまっているか、子宮頸部にまで広がっているか、子宮の外のどこまで進展しているか、リンパ節転移を疑わせるリンパ節の腫れがあるか、がんが骨盤を超えて進展しているか、がんが肺や肝臓など遠く離れた臓器に転移しているかなどを調べます。
子宮体がんの進行期分類は、「手術進行期分類」といって、手術を行った後に摘出した検体の病理検査を行った上で、最終的な治療方針を決定します。手術前には、I期・II期、III期・IV期と考えられる症例に分け、必要に応じた手術を行います。
手術後に、がんの進展に応じて、手術進行期分類が決定されます。がんが子宮体部にとどまっているものがI期です。がんが子宮体部にとどまらず、子宮頸部にまで広がった場合がII期となります。III期は、がんが子宮外に出ているが骨盤内にあるもの、または骨盤リンパ節あるいは傍大動脈リンパ節に転移があるものです。IV期は、がんが骨盤の外に広がるか膀胱や直腸に浸潤するもの、または肺や肝臓などの遠隔臓器に転移があるものです。
手術前にIII期・IV期と考えられるケースでは、全身状態がよくないために手術が行えないこともあります。また、遠隔臓器への転移が明らかな場合には、手術を行わないこともあります。そのような場合には、抗がん剤による化学療法や放射線療法が選択肢となります。ただ、このようなケースはあまり多くはなく、IV期でも手術が可能なら手術を行うのが一般的です。不正性器出血がある場合、子宮を全摘することで、その症状を改善するという効果も期待できます。
手術後は、手術進行期分類を決定するとともに、切除した手術検体の病理組織検査を行い、再発のリスクを評価します。すなわち、がんの組織型、子宮頸部への進展の有無、卵巣や卵管への進展の有無、脈管侵襲(血管やリンパ管にがん細胞が入ること)の有無などを詳しく調べ、低リスク、中リスク、高リスク群に分類します。そして、手術進行期分類と再発リスク分類から、手術後にどのような治療を行うかを決定します。
子宮体がんの治療で行われる基本的な手術は、「単純子宮全摘出術+両側卵巣卵管摘出術」で、子宮と卵巣と卵管を切除する手術です。また、子宮体がんの手術では、多くの場合、リンパ節郭清も行われ、通常、骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節を切除します。さらに大網への転移が疑われる場合には、大網も切除します。卵巣の摘出に関しては、子宮体がんが、卵巣に転移している可能性や子宮体がんとは別に卵巣がんが発生している可能性があるため、切除の検討は慎重に行うことが大切です。画像診断で、ほぼ正常な大きさに見える卵巣へ約20%の確率で転移しています。子宮体がんが卵巣へ転移しているリスクは、術前診断I期では5%1,2)、術前診断II期では10%前後といわれています3,7)。日本では、子宮体がんと卵巣がんの両方が発生している頻度は2%~10%と報告されています8,10)。卵巣から分泌されている女性ホルモンが、卵巣を摘出することによって減少するさまざまな全身への影響があります。例えば、更年期のような症状や骨粗しょう症、動脈硬化や高血圧などの心血管系への影響です。
がんの進展状態によっては、切除する範囲がもう少し広くなる「準広汎子宮全摘出術」や「広汎子宮全摘出術」も行われます。
I期と考えられる場合は腹腔鏡下手術も選択肢の1つ
手術は開腹手術が行われることもあれば、腹腔鏡下手術が行われることもあります。「子宮体がん治療ガイドライン2013年版」では、がんが子宮体部に限局し、子宮頸部に浸潤がないと予想される早期子宮体がん(I期と考えられる子宮体がん)に対しては、「症例により腹腔鏡下手術の日常診療での実践も考慮される」となっています。
また、腹腔鏡下手術に関しては、「日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医または日本内視鏡外科学会の技術認定医と、日本婦人科腫瘍学会の婦人科腫瘍専門医を加えたチームまたは指導体制で、腹腔鏡下手術を行うかどうかを決め、腹腔鏡下手術を実施する場合には、そのようなメンバーで行うのが望ましい」と記載されています。
術後治療は、再発リスクに合わせて経過観察、化学療法、放射線治療、ホルモン療法を選択
再発リスクが高い場合、化学療法としてはアドリアマイシンとシスプラチンを併用するAP療法が推奨され、タキサン製剤とプラチナ製剤を併用するTC療法も考慮されます。
プロフィール
久布白兼行(くぶしろかねゆき)
1993年 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室助手・診療医長
1999年 慶應義塾大学医学部専任講師
2007年 東邦大学医療センター大橋病院産婦人科教授・診療部長
参考文献
1) Takeshima N,et al.:Gynecol Oncol 1998
2) Boronow RC,et al.:Obstet Gynecol 1984
3) Boente MP,et al.:Gynecol Oncol 1993
4) Creasman WT,et al.:Am J Obstet Gynecol 1999
5) Leminen A,et al.:Acta Obstet Gynecol Scand 1995
6) Sato R,et al.:Eur J Gynaecol Oncol 2003
7) Yura Y,et al.:Gynecol Oncol 1996
8) 笹川 基,他:日産婦誌 2000
9) Kamikatahira S,et al.:Int J Clin Oncol 1996
10) Nishimura N,et al.:J Obstet Gynaecol Res 2005