「ももの木」血液疾患患者が自ら伝える、命の尊さ

ももの木
NPO法人血液患者コミュニティももの木理事長 大橋晃太さん 副理事長 井上千恵美さん

2018.4 取材・文 大場真代

 血液疾患患者さんやその家族が気軽に集まれる場をつくりたい、という思いから始まったNPO法人ももの木。患者さんやその家族のための交流会や、入院患者さんのための院内イベントの企画・運営、患者さんが自身の経験を語る「いのちの授業」などさまざまな活動を行っています。その活動について、理事長の大橋晃太さんと副理事長の井上千恵美さんにお話をうかがいました。

患者さんが自分で考え・行動することを大切に

 ももの木は、東京大学医学部附属病院と東京都立駒込病院の血液疾患患者さんのOB・OGを中心とした患者会として、2000年に医師の田中祐次先生の呼びかけによって設立しました。2003年にはNPO法人となり、現在では、東京大学医学部附属病院と東京都立駒込病院の患者さんだけでなく、地域や病院に隔たりなく、多くの患者さんが参加されています。ももの木の立ち上げ当時は、血液疾患患者さん同士が集まれる場所が少ない状況でした。そのため、「まず、退院されている患者さん同士が気軽に集まれる場をつくりたい」という思いから交流会を始めました。交流会では、患者さん同士だから相談できるような悩みを共有したり、情報交換をしたり、さまざまなことを話します。そうした中で、「自分は1人じゃない」と気付くのだと思います。

 ももの木では、「できることを、できる人が、できるときに」というスローガンを掲げています。そのため、交流会の中で患者さんから「こういうことをやりたいね」という提案があれば、賛同する人たちが集まって、自発的に活動を行ってきました。例えば、入院している患者さんへ向けて、大道芸や着ぐるみによるショー、ゴスペルコンサートなどの院内イベントを行っています。また、運動部を作り、社会復帰へ向けて外に出るための心身のトレーニングとして、ウォーキングイベントなども開催してきました。ももの木の主役は、患者さんです。患者さんが自分で考え・行動するということを大切にしています。

患者さんが自身の経験を子どもたちに伝える「いのちの授業」

 2002年から行っている「いのちの授業」は、ももの木の特徴的な活動のひとつで、2017年度末で123回を迎えます。いのちの授業とは、小・中学生、高校生、専門学生、大学生などを対象に、命の尊さや生きることの大切さを知ってもらうため、ももの木のメンバーである血液疾患患者さんが自身の経験談をお話するものです。この活動は、いじめを苦に子どもが自殺という手段を選んでしまうニュースが後を絶たない中で、「闘病経験者の話を聞くことで、子どもたちに命の大切さを真剣に考えてほしい」という保護者の声を受けて始まりました。活動が広がる中で、「自分の体験を通じて、子どもたちに命の大切さを伝えたい」と思う患者さんが増えていると感じています。

 いのちの授業では、患者さんが、自身の闘病生活をもとに実感した生きる喜びや、多くの人たちに支えられていることに対する感謝の気持ちをお話します。講演後の子どもたちの感想文では、「『仲間の支えによって辛い時期を乗り越えることができた』という患者さんの話を聞き、仲間はとても心強い存在だと知った」、「将来、病気を治す薬を開発したい」、「患者さんの前向きな姿を見て、自分も前向きに生きていこう!と思った」という声が寄せられています。講演する側である私たちが力をもらえるような内容ばかりで、いつも元気づけられています。授業を通じて、多くの子どもたちが命や死について改めて考える機会になってほしいと願っています。

「いのちの授業」を通じて、患者さんにも変化が

 また、いのちの授業を行うことで、子どもたちだけでなく患者さん自身にも良い影響があると感じています。講演する患者さんには、事前に自身の闘病経験を整理するために、さまざまな出来事やその時に感じたことを書き出してもらいます。自身の経験した辛い出来事を、客観的に見つめることができるようになるまでには、相当なエネルギーと勇気が必要です。しかし、この作業を通じて、気持ちが整理でき、心が落ち着き、前向きになっていく患者さんが多くいらっしゃいます。また、講演後の子どもたちの感想文などから、「自分の経験が誰かの役に立つ」ということに気付き、そのことがやりがいにつながり、社会復帰へ向けて自信を取り戻すこともできると感じています。

 いのちの授業を続けてくることができた理由として、患者さん自身が「子どもたちから元気をもらいながら楽しんで」活動できていることもあると思います。ももの木の活動では、「誰かのため」ということに加えて「自分たちも楽しめる」ということを大切にしています。病気を経験したことは大変なことでしたが、その経験を通じて誰かの役に立つことを知ったということは、私たちにとってかけがえのない経験となりました。今後も、「患者さんが自分で考え・行動する」ということを大切に、賛同してくださる方々の応援をいただきながらさまざまな活動を行っていきたいと考えています。

NPO法人 血液患者コミュニティ ももの木 外部リンク

がん種
血液がん
地域
全国
いのちの授業
ももの木のメンバーである血液疾患患者が、小・中学、高校、専門学校、大学などで「命の大切さ」について講演します。詳しくは公式ウェブサイトよりお問い合わせください。
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活動内容
ももの木は、血液疾患患者さんのためのNPO法人。患者さんやその家族が気軽に集まれる交流会や、入院患者さんのための院内イベントの企画・運営を行っています。