2度の乳がん治験体験、信頼が厚くなった担当医の綿密な治療計画
治験の募集状況は、「jRCT 臨床研究等提出・公開システム」ページでご確認ください。
体験者プロフィール
綾さん
年齢:50代
がん種:乳がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)
診断時ステージ:1回目ステージ2B、2回目ステージ4
乳がん治療中の綾さんは、2つの治験に参加されています。1度目は2011年、デノスマブ(製品名:ランマーク)の第3相試験。2度目は2019年、日本未承認薬のPARP阻害薬を評価する第1相試験で、現在も参加中です。最初に乳がんと告知された際は、トリプルネガティブと診断されました。2度目の治験参加にあたり受けた遺伝子検査でBRCA1遺伝子変異が陽性とわかり、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断されました。どのような思いで治験に参加されたのか、告知から治験まで、2度の治験体験を語っていただきました。
治験への参加提案、がんの深刻さを実感
2010年11月、右乳房にしこりがあることに気が付きました。年末に、再度セルフチェックしてもやっぱりしこりがあったので、地元の総合病院を受診して精密検査を受けたところ、乳がんと診断されました。
「2週間後に手術で乳房全摘しましょう」と言われたのですが、その病院には乳腺科がなかったので、返事を保留しました。その後すぐに、地域のがんセンターを受診して、再度検査を受けました。その結果、乳がんと腋窩リンパ節への転移も判明。後日、トリプルネガティブ乳がんであることもわかりました。
がんセンターの担当医からは、術前化学療法とデノスマブの治験への参加を提案されました。治験は、再発リスクの高い早期乳がん患者さんが対象で、骨転移および骨以外の部位での再発に対してデノスマブが有効かを検討するものでした。実は、告知の際にはっきりとステージ〇です、と言われた記憶はなかったのですが、治験を勧められるほど、私のがんは深刻で、再発リスクが高い乳がんなんだと、その時に認識しました。
治験という言葉すら初めて聞き、訳もわからず1週間ほどインターネットでありとあらゆる、がんに関わる情報を検索しました。ネガティブな情報ばかり目につき、やっぱり「人体実験」なのかなとか、「死ぬのかな」とか、いろいろ考えました。
でも当時私はまだ30代で子どもも小さく、「ここがどん底なら、後はのぼっていくだけ、私はこうはならない」と気持ちを切り替えて、治験に参加することを決めました。
治験中の定期検診と手厚い診察が「お守り」
2011年3月、仕事を一時的にセーブして、治療に専念することにしました。化学療法(FEC療法※4クール+パクリタキセル)の治療を受け、8月に乳房温存手術、その後放射線治療を受けました。
その後は、3か月に1度通院して治験薬の投与を受け、2015年11月に治験は終了しました。その間、体のだるさなどはありましたが、特に生活に支障がでるような副作用はなく、仕事もできる状態でした。治験終了までの約4年、がんセンターで受けたCT、骨シンチなど定期的な検査と診察は、私にとっては心強く「お守り」のようなもので、再発もなく以前のような生活を送ることができました。
※FEC療法:フルオロウラシル、エピルビシン、シクロフォスファミドの3剤併用療法担当医の綿密な治療計画を知り、さらに信頼が厚く
2019年6月、今度は左乳房のしこりに気が付き、がんセンターで検査を受けました。直近の定期検診では特に異常がなかったことから、担当医も「転移・再発ではなく新たながんで、ステージ1でしょう」と予測するほどでした。
マンモグラフィー検査と細胞診で乳がんが確定し、追加の超音波検査を受けました。その検査の結果がでるタイミングで、予想外の出来事が起こりました。一過性脳虚血発作(脳梗塞の前兆とされる脳の病態)を発症し、大学病院へ救急搬送され、入院することになってしまいました。
大事には至りませんでしたが、しばらくはがん治療とともに脳に対する治療も必要ということがわかり、脳神経科医と相談し、がん治療も大学病院に転院して受けることにしました。しかし、がんセンター担当医からの治療計画書を見た大学病院の医師から「大学病院では使用できない薬剤があります。何より、がんセンターの担当医はものすごく綿密に治療計画を考えてくれています。転院しないで、がんセンターで治療を続けられてはどうですか?」とアドバイスをいただきました。
がんセンターの担当医は、私の性格なども良く理解してくれる方でしたので、その先生の治療方針を信じていこうという気持ちになりました。
2度目の乳がん、ステージ4の診断で2度目の治験参加へ
がんセンターに戻り、超音波検査で少し気になるところがあると言われていたため、PET-CT検査を受けました。その検査の結果、ステージ4と診断されました。1度目のがん発覚時よりもはるかに大きなショックを受け、少し現実を受け入れるのに時間がかかりました。
30代で1度目のがんを経験し、2度目のがんもトリプルネガティブ乳がんとわかったことから、「遺伝性のがんの可能性がある」と先生から告げられ、遺伝子カウンセリングを受けることになりました。「遺伝子検査を受けるなら実費(BRCA1/2遺伝子検査の保険適用は2020年4月)」と言われ、どうしようかと悩んでいたとき、「標準治療なら軽めの抗がん剤から始めます。手術はしませんが、治験もいくつかありますよ」と提案されました。
担当医が勧めてくれた治験の1つが、タラゾパリブという経口の分子標的薬の第1相試験でした。BRCA1/2遺伝子変異陽性の乳がん患者さんが対象で、治験参加を希望するなら、遺伝子検査は治験の参加条件となるため、費用はかからないと説明を受けました。1度目の治験参加で、治験に対するネガティブなイメージもかわり、2度目の治験に参加することにしました。
遺伝子検査で、BRCA1遺伝子変異があることがわかり、治験参加の条件にあてはまることが確認されました。まだ、安全性も有効性も確認されていない第1相試験の参加は不安もありましたが、信頼できる医師のサポートもあり、参加を決意しました。
遺伝性のがんを対象とした治験に参加できたことに感謝
「遺伝性のがん」については、同じ遺伝性の乳がんを患っている友人から話を聞いていました。友人も2度のがんを発症し、遺伝子検査を受けHBOCと診断されたそうです。それを踏まえ、もしかしたら私もHBOCかもと思っていたので、担当医からの話もスムーズに受け入れることができました。
私がHBOCとわかってから、家族や親族に遺伝性のがんについて話をし、検査を受けてもらいました。また、遺伝するということはどういうことかも話をしました。将来、子どもが結婚する際にどう思うか、どう考えるかは、HBOCに対する正しい知識をもって判断してほしいと願っています。
ステージ4と聞かされた時は本当に絶望感しかありませんでしたが、HBOCとわかり、HBOCを対象とした治験に参加したことで、数か月後には腫瘍の縮小が確認されました。ここまで困難なこともいろいろありましたが、今は普通に生活することができていますので、治験に参加できたことに感謝しています。
治療歴
- 2010年11月
- セルフチェックで右乳房にしこりを自覚
- 2010年12月
- 地元の総合病院で精密検査
- 2011年1月
- 乳がんと診断、外科手術を提案される
地域のがんセンターで再度精密検査、腋窩リンパ節への転移も発覚
- 2011年2月
- トリプルネガティブ乳がんと診断、デノスマブの治験参加を検討
- 2011年3月
- デノスマブの治験に参加、並行して術前化学療法(FEC療法4クール+パクリタキセル12サイクル)
- 2011年8月
- 乳房温存手術
- 2011年10月
- 放射線治療 以後、3か月に1度受診して、治験薬の投与を受ける
- 2015年11月
- デノスマブの治験終了 以後、定期検査で経過観察
- 2019年6月
- セルフチェックで左乳房にしこりを自覚、精密検査
- 2019年7月
- 一過性脳虚血発作を発症し、大学病院に緊急入院
がんセンターで再再検査を受け、ステージ4の乳がんと診断
タラゾパリブの治験参加の提案を受ける
遺伝子検査を受け、BRCA1陽性とわかる
- 2019年8月
- タラゾパリブの治験参加(現在も継続中)
1回目の治験内容
- 治験名
- 標準的な術前/術後補助療法を受けている再発リスクの高い早期乳癌女性患者に対する術後補助療法としてのデノスマブの試験(D-CARE)
- 対象疾患
- 乳がん
- 治験概要
- デノスマブが術後補助療法として再発リスクの高い早期乳癌女性患者に投与された時の、骨転移および骨以外の部位での再発に対するデノスマブの効果を調査
- フェーズ
- 第3相
- 試験デザイン
- 国際、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験
- 登録数
- 4,500
- 治験薬
- デノスマブ
- 対照薬
- プラセボ
- 主要評価項目
- 無骨転移生存期間
- 副次的評価項目
- 無病生存期間、全生存期間、無遠隔再発生存期間、安全性および忍容性など
2回目の治験内容
- 治験名
- 日本人進行固形がん患者を対象としたTALAZOPARIB(PARP阻害薬)の第1相試験
- 対象疾患
- 固形がん、乳がん
- 治験概要
- 用量漸増パートと拡大パートの2つのパートで構成。用量漸増パートは、標準治療によって効果が得られなかった、あるいは標準治療がない進行固形がん成人患者を対象として、タラゾパリブ単剤の安全性、予備的な有効性および薬物動態を逐次的コホートで検討。拡大パートは、有害なまたはその疑いがある生殖細胞系BRCA1またはBRCA2変異を有する局所進行または転移乳がん成人患者を対象に、用量漸増パートで決定したRP2Dでのタラゾパリブ単剤の有効性、安全性および薬物動態を評価。
- フェーズ
- 第1相
- 試験デザイン
- 用量漸増パート:逐次投与、非盲検 拡大パート:非盲検単群
- 登録数
- 26
- 治験薬
- タラゾパリブ
- 対照薬
- なし
- 主要評価項目
- 用量漸増パート:用量制限毒性
拡大パート:客観的腫瘍縮小効果
- 副次的評価項目
- 用量漸増パート:無増悪生存期間、最高血漿濃度、有害事象など
拡大パート:無増悪生存期間、全生存期間、投与直前の血漿トラフ濃度、有害事象など