治験は「未来へつながる扉」、治療選択が増えることで前向きに

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Aさん

体験者プロフィール
A・Kさん

性別:女性
年齢:50代
がん種:肺がん
診断時ステージ:ステージ1b

 A・Kさんが初めて肺がんと診断されたのは2016年、50歳のときでした。健康診断がきっかけで見つかり、すぐに手術などの初期治療を受けましたが、1年経たずに再発。その後も転移・再発が続き、治療選択が限られてきたところで、2020年秋から分子標的薬治験に参加。約7年におよぶ治療と治験参加への経緯を伺いました。

携帯電話に多数の着信履歴、「まさか」のがん発覚

 職場で実施された健康診断が、がん発覚のきっかけでした。健康診断を受けたのは2016年1月。金曜に受けたのですが、翌週の月曜、同じ電話番号から携帯に7回も着信があり、驚きました。健診を受けた医療機関からで、留守電に「夜間でもいいから電話をください」とメッセージがあり、ただ事ではないことはわかりました。最終的に、総合病院で精密検査を受け、初期の肺がんと診断されました。

 手術では左肺の下葉4分の1を切除。術後は規定通りに化学療法を受けました。1年間は継続ということでしたが、副作用はほとんどなく、仕事を継続でき、生活に大きな支障はありませんでした。

1年経たずに再発、セカンドオピニオンも受ける

 経過観察中の2016年12月、腫瘍マーカーの上昇が確認され、画像検査を受けたところ、肺がんの再発がわかりました。

 提示された治療選択は、放射線治療か分子標的薬でした。EGFR変異陽性ということでしたので、分子標的薬の治療も可能でした。放射線治療の場合、根治を目指せるということでしたが、何度も放射線を当てなければならず、その後に抗がん剤治療があり、「QOLが著しく下がりそう」「仕事を継続できそうにない」と不安でした。悩んだ末、分子標的薬の治療を受けることにしました。通院は2か月に1度、1年半ほどその治療を続けました。ひどい副作用はなく、フルタイムの仕事を継続できました。

 再発がわかったときは落ち込みました。まだ大学生だった子どもたちは特に何も言ってこなかったのですが、主人は、私以上に情報収集をしてくれました。また、気になる治療法が見つかったときは、県外の遠方の病院まで一緒にセカンドオピニオンを聞きにも行ってくれました。2017年は2度行きましたが、主治医から提示されている治療方針は妥当ということで、納得して帰る感じでした。

再々発と転移で狭まる治療選択、仕事を離職

 2018年8月、肺がんの増悪と脳転移がわかり、同月中に脳転移に対するガンマナイフ治療を受けました。原発巣に対しては、抗がん剤治療を予定していました。ですが、通院中の病院で、ある薬の治験がちょうど開始されることになり、治験前の検査(生検)を受けたところ、T790M陽性と判明。その結果を受け、その治験には参加せず、オシメルチニブの治療を受けることになりました。

 ガンマナイフ治療を受けたため、通勤に欠かせない運転をしばらく避けなければならず、電車と電動自転車の通勤スタイルになったことや、入退院を繰り返さなければならなくなることなどで、働くことが難しくなり、この頃に1度仕事を辞めました。

 その後、同じ職場に復帰しましたが、2020年春にまた肺がんが増悪、抗がん剤治療のため、仕事を退職しました。これまでの治療で、この頃が一番しんどかったです。病院行くと吐き気がしましたし、入院中は食事の配膳のにおいだけでもつらくて、気力もどんどんなくなっていました。

4度目のセカンドオピニオンで治験参加の提案、1か月後から参加

image写真はイメージです

 同じ年の8月に副腎と仙骨への転移が見つかりました。提示されたのは細胞障害性抗がん薬による化学療法でしたが、これまでつらかったのでできればその治療を受けたくありませんでした。他の選択肢はもうないのか、4度目のセカンドオピニオンを求め、隣県の大学病院を訪れました。すると、担当してくださった医師から、「来週から始まる治験があって、紹介できますよ」と提案されました。

 詳しく話を聞いてみると、第1相試験で治験薬はEGFR変異陽性の肺がんに対する分子標的薬とのこと。分子標的薬は使用経験があったので抵抗感がなく、第1相試験では必ず治験薬を投与されるということでした。細胞障害性抗がん薬以外の選択ができることが、私にとってはとにかく朗報で、セカンドオピニオンに同席していた家族も、治験参加に賛成してくれたので、二つ返事で「お願いしたい」と伝えました。

 実際、その1か月後から治験に参加することが決まりました。開始直後は入院しましたが、その後は通院で投与を受けました。皮疹などの副作用はありましが、重い副作用は起こりませんでした。治験開始後6週目の画像検査で肺がんの縮小、副腎のがんも抑制されていることが確認され、すごくモチベーションがあがり、うれしかったです。

 治験中大変だったのは、2週間に1度の通院(車で片道1.5~2時間)と、大学病院での待ち時間の長さくらいでしょうか。2022年3月まで治験薬の投与を受け、無事終了しました。

 現在は、月に1回の抗がん剤治療を受け、初発の肺がんの頃と同じ程度の腫瘍マーカー値で推移しています。治験については、3か月に1度、治験コーディネーターからの電話で経過を報告しています。治験を勧めてくれた大学病院の医師が、私の住む県の病院で定期的に診療にしていて、今はその病院に通院しています。通院が楽になって、自分の時間も結構とれるようになりました。

「承認されて、同じ病気の人の治療に役に立ってほしい」

 治療選択肢が年々狭まってくる中で、「治療選択肢を1つでも広げてくれるのが治験」だと思っていました。「未来へつながる扉」というイメージです。私はもちろんなのですが、もしこの治療法が承認されれば、同じ病気の患者さんにとっても新しい治療選択肢が増えますよね。気持ちが少しでも前向きになってほしいです。今もその考えは変わりません。

 同じ時期に同じ治験を受けた方と交流があり、「夢のような時間をもらったね、早く承認されて、同じ病気の患者さんでも使用できるようになったらいいのにね」なんて、話をしていました。私たちの治験のデータが、将来役に立ってくれたら本望です。

 また、あれもこれもといろいろな情報を調べたことや、4度のセカンドオピニオンも、今となっては、情報を精査するための目を養うのに役立ったなと思います。

治療歴

2016年1月
健康診断で左肺に異常が見つかる
精密検査の結果、ステージ1bの非小細胞肺がんと診断
2016年2月
手術で左肺下葉4分の1を切除、術後の抗がん剤治療を開始
2016年12月
肺がんの再発、リンパ節2か所へ転移
2017年1月
分子標的薬による治療を開始、以後、2か月に1度の通院
2018年8月
脳転移と原発巣の増悪
脳腫瘍に対するガンマナイフ治療
2018年12月
生検でT790M陽性、オシメルチニブの治療を開始
再び脳転移が見つかり、ガンマナイフ治療
2020年3~4月
肺がんが増悪
2020年5月
抗がん剤治療
2020年8月
副腎、仙骨への転移、次の抗がん剤治療を勧められる
2020年10月
セカンドオピニオンを受診し治験を勧められる、治験に参加
2022年3月
治験終了
2022年4月~
月に1度の抗がん剤治療

治験内容

治験名
進行性非小細胞肺癌を有する被験者を対象としたラゼルチニブの単剤投与またはアミバンタマブとの併用投与試験
対象疾患
進行性非小細胞性肺がん
治験概要
ラゼルチニブの第2相試験の推奨用量の忍容性を確認すること(第1相)、および日本人被験者においてラゼルチニブをアミバンタマブと併用した際の忍容性および、第2相試験の推奨用量を決定すること(第1b)
フェーズ
第1相
試験デザイン
非盲検
目標症例数
520
治験薬
ラゼルチニブ、アミバンタマブ
主要評価項目
安全性(用量制限毒性の発現頻度、有害事象)、有効性(全奏効率)など
副次的評価項目
薬物動態、無増悪生存期間など