CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法とはどんな治療法なのか、種類と開発状況を紹介します。

 CAR-T細胞療法とはどんな治療法なのか、種類と開発状況を紹介します。

CAR-T細胞療法とは

 エフェクターT細胞は、異物(抗原)を認識して活性化したT細胞のことです。エフェクターT細胞に対し、異物を認識する前のT細胞は、ナイーブT細胞といわれます。がん抗原を認識したエフェクターT細胞は、がん細胞を直接攻撃したり、がん細胞への攻撃を助けたりする働きが期待されるため、そのメカニズムを応用した治療法が「エフェクターT細胞療法」です。エフェクターT細胞療法は主に、「非特異的エフェクター細胞輸注療法」「標的抗原特異的エフェクターT細胞輸注療法」「非自己細胞を用いた細胞療法」に分けられます。この中で承認されているのは、標的抗原特異的エフェクターT細胞輸注療法のうち、キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞輸注療法(CAR-T細胞療法)のみで、適応となるがんの種類も限られています。

 標的抗原特異的エフェクターT細胞輸注療法は、腫瘍浸潤Tリンパ球輸注療法、腫瘍抗原特異的TCR遺伝子導入T細胞輸注療法、キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞輸注療法(CAR-T細胞療法)などがあります。

 このうち承認されている治療は、CAR-T細胞療法です。CAR-T細胞療法は、患者さんから採取したT細胞を、がん細胞の表面にある目印を標的として攻撃するように遺伝子改変し、体外で培養したのち、患者さんに戻してがん細胞を攻撃する治療法です。

図1 CAR-T細胞の働き

CAR-T細胞の働き

CD19特異的CAR-T細胞は、図のような仕組みでCD19抗原陽性のB細胞性腫瘍(白血病や悪性リンパ腫)を破壊する

図2 CAR-T細胞療法の流れ

CAR-T療法の流れ

 CAR-T細胞療法は、今のところ個々の患者さんから採取したT細胞を使用するため、完全テーラーメイド治療だといえます。臨床試験の結果だけでなく、承認後、実際に治療で用いる中でも治療効果が認められていますが、製造時間がかかる、製造不良のリスクがあるなどの課題もあります。また、サイトカイン放出症候群、神経毒性、血球減少、低ガンマグロブリン血症など、重篤な副作用もあり、経験のある専門医による慎重な適応判断が必要とされます。

国内承認済のCAR-T細胞療法

 CAR-T細胞療法では、がん細胞の表面に発現する特定の抗原を標的として認識するように遺伝子が改変されています。現在、「CD19」「BCMA」という抗原を標的とした薬剤が国内で承認されています。

 CD19を標的とした薬剤は、チサゲンレクルユーセル(製品名:キムリア)、アキシカブタゲン シロルユーセル(製品名:イエスカルタ)、リソカブタゲン マラルユーセル(製品名:プレヤンジ)の3つです。BCMAを標的とした薬剤は、イデカブタゲン ビクルユーセル(製品名:アベクマ)とシルタカブタゲン オートルユーセル(製品名:カービクティ)の2つです。

 各薬剤の適応は、以下のがん種に対する効能または効果です。

一般名(製品名)標的適応
チサゲンレクルユーセル
(製品名:キムリア)
CD19再発または難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病
再発または難治性のCD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫
再発または難治性の濾胞性リンパ腫
アキシカブタゲン シロルユーセル
(製品名:イエスカルタ)
CD19びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫
形質転換濾胞性リンパ腫
高悪性度B細胞リンパ腫
リソカブタゲン マラルユーセル
(製品名:プレヤンジ)
CD19びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞
リンパ腫、形質転換低悪性度非ホジキンリンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫
再発または難治性の濾胞性リンパ腫
イデカブタゲン ビクルユーセル
(製品名:アベクマ)
BCMA再発または難治性の多発性骨髄腫
シルタカブタゲン オートルユーセル
(製品名:カービクティ)
BCMA再発または難治性の多発性骨髄腫

参考文献:日本臨床腫瘍学会編. がん免疫療法ガイドライン 第3版.金原出版