神経内分泌腫瘍の治療選択
神経内分泌腫瘍と診断された際の、発生部位やホルモン症状による治療選択を紹介します。
神経内分泌腫瘍の治療選択
神経内分泌腫瘍(NEN)の治療選択は、高分化型のNETと低分化型のNECで異なります。NETの治療は、手術、局所療法、薬物療法の3つのうちから、必要に応じて選択されます。
NET治療の第1選択は、手術です。遠隔転移がある場合でも手術が考慮され、症状の緩和や予後改善を目的に減量手術が行われることがあります。
手術の内容は、ホルモン症状や発生部位によってそれぞれ選択されます。
非機能性膵NENの治療選択(MEN1除く)
局所に留まっている非機能性NETで腫瘍径が1cm未満の場合は、核出術(病変のみを摘出する手術)を含む膵切除術が行われます。腫瘍径が1cm以上2cm未満の場合は、核出術を含む膵切除術+リンパ節郭清が行われます。腫瘍径が2cm以上の場合は、定型的膵切除術+リンパ節郭清が行われます。
手術、薬物療法、放射線治療などさまざまな治療を組み合わせた治療法を集学的治療といいます。局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
局所に留まっている非機能性NECでは、切除可能であっても手術の適応は明らかになっていないため、手術の適応は現時点では不明とされています。また、所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法が行われます。
インスリノーマの治療選択
非浸潤性のインスリノーマの場合で、主膵管損傷の可能性が低ければ、核出術が行われます。主膵管損傷の可能性が高い場合は、「膵部分切除」「分節切除術」「膵尾部切除術」が行われます。
浸潤している場合、多発性の場合、膵管拡張を伴うリンパ節転移がある場合は、定型的膵切除術+リンパ節郭清が行われます。
腫瘍が確認できない場合は、開腹による再検査が行われます。
ガストリノーマの治療選択
局所に留まっている膵ガストリノーマの場合は、膵腫瘍切除+リンパ節郭清が行われます。同様に、局所に留まっている十二指腸ガストリノーマの場合は、十二指腸腫瘍切除+リンパ節郭清が行われます。手術方法は、腫瘍がある位置により、「膵頭十二指腸切除術」「膵体尾部切除術」「膵中央切除術」「膵部分切除術」から選択されます。
局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
その他の機能性膵NETの治療選択
膵臓に病変が留まっているインスリノーマとガストリノーマ以外の機能性NETでは、膵腫瘍切除+リンパ節郭清が行われます。手術方法は、腫瘍がある位置により、「膵頭十二指腸切除術」「膵体尾部切除術」「膵中央切除術」「膵部分切除術」から選択されます。
局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
食道NENの治療選択
局所に留まっている食道NETでリンパ節転移のない早期がんでは、内視鏡的切除術または外科手術が行われます。
局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
ステージ1~3の食道NECでは、手術が行われ、必要に応じて補助化学療法が行われます。ステージ1~3の一部と4aでは、化学放射線治療が行われます。ステージ4bでは、化学療法が行われます。
胃NENの治療選択
胃NETは、萎縮性胃炎に伴う高ガストリン血症により生じる「I型」、MEN1およびゾリンジャー・エリソン症候群※に伴う高ガストリン血症により生じる「II型」、散発性でガストリン非依存性の「III型」に分類され、それぞれのタイプに合わせた治療が選択されます。
局所に留まっている胃NECでは、手術の適応は明らかになっておらず、局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法が行われます。
※ゾリンジャー・エリソン症候群は、腫瘍により胃酸が過剰に分泌され、症状がなかなか改善しない消化性潰瘍が起きる病気です。
I型で「腫瘍径が1cm未満」「固有筋層への浸潤なし、かつリンパ節転移がない」の2つの条件を満たし、かつ病変が少数の場合は、経過観察もしくは内視鏡的切除術が行われます。病変が多い場合は、局所切除術または胃切除術、もしくは幽門洞切除術が行われます。
腫瘍径が1cm未満でも「固有筋層への浸潤あり、またはリンパ節転移がある」場合と、腫瘍径が1cm以上の場合は、胃切除術+リンパ節郭清が行われます。
II型の場合は、経過観察と幽門洞切除術を除く、I型と同様の治療選択が行われます。
局所に留まっているIII型の場合は、胃切除術+リンパ節郭清が行われ、局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
十二指腸NENの治療選択
局所に留まっている十二指腸NETで、「腫瘍径1cm未満」「固有筋への浸潤なし」「リンパ節への転移なし」の3つの条件が揃っている場合は、内視鏡的切除術も考慮されます。
内視鏡的切除術後に、「切除断端陽性」「脈管侵襲陽性」「固有筋層への浸潤あり」「ガストリノーマなど機能性腫瘍」のいずれかの条件と合致した場合は、切除術(腫瘍摘出術、十二指腸切除術、膵頭十二指腸切除術など)+リンパ節郭清が行われます。
局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法や、肝転移に対する局所治療など集学的治療が行われます。
局所に留まっている十二指腸NECでは、切除可能であっても手術の適応は明らかになっていないため、手術の適応は現時点では不明とされています。また、局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法が行われます。
虫垂NENの治療選択
局所に留まっている虫垂の先端や体部に発生したNETで、「腫瘍径2cm未満」かつ「リスク因子なし」の場合は、虫垂切除術が行われ、「腫瘍径が2cm以上」または「リスク因子あり」の場合は、回盲部切除術+領域リンパ節郭清が行われます。根部に発生した虫垂NETでは、回盲部切除術+領域リンパ節郭清が行われます。
局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
局所に留まっている虫垂NECでは、切除可能であっても手術の適応は明らかになっていないため、手術の適応は現時点では不明とされています。また、局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法が行われます。
結腸・直腸NENの治療選択
局所に留まっている結腸・直腸NETで、「腫瘍径1cm未満」「固有筋層への浸潤なし」「リンパ節転移なし」の場合は、内視鏡切除術が行われます。内視鏡切除後に、断端陰性(切除した病変にがん細胞が認められない)の場合は経過観察、断端陽性(切除した病変にがん細胞が認められる)の場合は、結腸/直腸切除術+領域リンパ節郭清が行われます。
「固有筋層への浸潤」または「リンパ節転移あり」または「脈管侵襲あり」の場合は、結腸/直腸切除術+領域リンパ節郭清が行われます。
局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法を中心とした集学的治療が行われます。
局所に留まっている結腸・直腸NECでは、切除可能であっても手術の適応は明らかになっていないため、手術の適応は現時点では不明とされています。また、局所進行切除不能または転移がある場合は、薬物療法が行われます。
参考文献:
日本神経内分泌腫瘍研究会 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン第2版作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019【第2版】.金原出版