前立腺がん、放射線治療の副作用低減への取り組み―セミナーレポート

2019/09/04

文:がん+編集部

 前立腺がんに対する放射線治療で、直腸有害事象を低減させることができるスペーサ留置術の有効性に関するセミナーが開催されました。

スペーサ留置術により、直腸の被ばく線量が低減、性機能保持率も向上

 オーグメニックスは8月28日、前立腺がんの放射線治療に対する副作用や患者QOLに関するプレスセミナーを開催。東京大学医学部付属病院放射線科准教授、放射線治療部門長の中川恵一先生を講師に招き、「前立腺がんに対する最新放射線治療と副作用低減の取り組み~患者様のQOL向上へ向けて」と題した講演が行われました。

 中川先生は、講演の冒頭で日本人のヘルスリテラシーの低さとがん教育の重要性に関して次のように語りました。

 「日本は世界一のがん大国ですが、がん対策後進国です。欧米ではがんは減っていますが、日本では増えています。日本は世界に比べ、がん検診率が低く、ヘルスリテラシーも低いのがその理由です。そして、ヘルスリテラシーが最も影響する疾患ががんです。中学・高校の保健体育の学習指導要領にがん教育を行うことが明記され、小中高校でがん教育が始まっています。これからは、大人へのがん教育が重要です」。

 国立がん研究センターの2018年のがん統計予測によると、前立腺がんは、男性の部位別罹患者数として胃がん、大腸がん、肺がんに次いで第4位です。これまで前立腺がんの治療法は、手術が第一選択でしたが、技術の進歩により、前立腺に放射線を安全に照射する「強度変調放射線治療(IMRT)」や小線源治療といった放射線治療も近年注目されています。その一方で、放射線治療によって直腸に障害が起こるケースもあり、重篤な場合、人工肛門が必要となることもあります。

 こうした有害事象に対する治療法として、スペーサ留置術があります。これは、ハイドロゲルという物質を、直腸と前立腺の間に注入してスペースを作る治療。高線量域の放射線が直腸に照射されることを防ぐことを目的に、放射線治療開始前に、局所麻酔または全身麻酔により行われます。放射線治療中は注入した部位にとどまり、放射線治療終了後は徐々に体内に吸収され、半年から1年で体外へ排出されます。

 「がん病巣にだけ放射線を集中することができれば、無限に放射線を照射することができます。そのために、ガンマナイフ、体幹部定位放射線治療、強度変調放射線治療などさまざまな機器が開発されています。強度変調放射線治療は、従来の放射線治療に比べれば、腫瘍以外の部位への影響は低減できています。前立腺がんの場合でも、前立腺と隣接する直腸への影響は少ないですが、隣接した側の直腸壁への影響は課題です。そのため、前立腺と直腸の間にスペースを空け、直腸壁への影響を減らすことを目的としたスペーサ留置術が開発されています」と、中川先生は副作用低減について解説されました。

 スペーサ留置を可能にする「ハイドロゲルスペーサー(販売名:SpaceOARシステム、オーグメニックス社製)」は、2018年6月に保険適用となった医療機器。東大病院で行われた強度変調放射線治療とハイドロゲルスペーサーを使用した、無作為化比較試験の結果、直腸線量の低減、直腸晩期有害事象の低減、性機能保持率の向上が確認されています。

 放射線治療は、手術のようにがんを消し去ることはできないと思われている人は多いかもしれませんが、多くのがんにおいて手術と放射線治療の治癒率は同等といわれています。放射線治療は、非侵襲、形態の温存、機能の温存が可能なため、働きながら通院治療を行える患者さんもいます。また、このような新しい医療機器の普及は、QOLを損なわず、より安全で有効な放射線治療が広がることにつながると期待されます。超高齢社会の日本では、高齢者も働きながら治療する必要があるため、ますます重要となっていきます。