再発乳がんの弱点をつく、新たな治療法
2019/09/10
文:がん+編集部
長期内分泌療法中に再発した乳がんについて、新たな治療法の開発につながる研究結果が発表されました。DNAの立体構造から見えた乳がん細胞の弱点です。
核酸医薬品、ER陽性再発乳がんの治療薬となる可能性
がん研究会は8月22日、今まで知られていなかった再発乳がん細胞の弱点とその仕組みを解明したことを発表しました。同研究会がん研究所がん生物部の斉藤典子部長らの研究グループと熊本大学、九州大学、理化学研究所らとの共同研究によるものです。
7割の乳がんは、女性ホルモンであるエストロゲン受容体(ER)陽性タイプです。ER陽性の乳がんでは、エストロゲンとその受容体が結合することで、がん細胞が増殖するため、エストロゲンを抑制する内分泌療法が行われます。しかし、内分泌療法中に細胞内の遺伝子の使われ方が変遷することがあり、治療効果がなくなることで再発します。
研究グループは、長期の内分泌療法中に効果がなくなり、再発した乳がんのモデル細胞を使い、タンパク質を作らない非コードRNA分子「エレノア」の役割を調べました。その結果、エレノアは細胞死を導く遺伝子(FOXO3遺伝子)と細胞増殖を導く遺伝子(ESR1遺伝子)という、相反する遺伝子を立体的に近づける現象を引き起こしていることを明らかにしました。さらに、エレノアを消失させると、ESR1遺伝子が使われなくなったにも関わらずFOXO3遺伝子のみが使われたままとなり、細胞死が誘導されることを実験で明らかにしました。
エレノアを標的とした核酸医薬の効果も調べたところ、エレノアが消失し、FOXO3遺伝子とESR1遺伝子のゲノム領域間が離開し、細胞死が誘導されたそうです。核酸医薬を用いた治療は、現在注目されている次世代の抗がん剤です。特異的にエレノアを阻害することができるため、副作用などが少ないことが予想され、今後期待できる治療薬になり得る可能性があります。
本研究は今後、動物実験や臨床試験などにより臨床応用される可能性はありますが、まだ培養細胞株による基礎研究です。