大腸がん転移、新たなメカニズムが解明

2019/11/21

文:がん+編集部

 大腸がんの新たな転移メカニズムが解明されました。大腸がんの細胞集団を標的にした転移抑制法の開発が期待されます。

大腸がんの細胞集団を標的にした転移抑制法の開発へ

 順天堂大学は11月6日、大腸がんの新たな転移メカニズムを解明したと発表しました。同大大学院医学研究科分子病理病態学の折茂 彰准教授、下部消化管外科学の坂本一博教授、水越幸輔助手、岡澤 裕助教らが、東京大学大学院新領域創成科学研究科の波江野洋特任准教授らと共同で行った研究によるものです。

 大腸がんは、大腸に局所的に発生し増大します。がんの進行とともに周囲組織に浸潤し、血管やリンパ管を通して肝臓や肺など多臓器に転移が起こります。上皮系の性質をもつ多数のがん細胞が何らかの刺激により、「組織間の隙間を埋める」(間葉系)性質を獲得することで単一細胞化し、周辺組織に浸潤、多臓器へ転移が起こるとこれまでは考えられていました。また、大腸がん細胞は間葉化せずに上皮系のまま複数のがん細胞が複数集まった小集団が浸潤し転移するという仮説もありました。

 今回研究グループは、40人の大腸がん患者さんの手術により採取した腫瘍片を、免疫不全マウスの皮下に移植。皮下に生着した腫瘍を摘出し、その腫瘍細胞が含まれる液体を、別のマウスの腸粘膜に注射しました。約半数のマウスの腸に腫瘍が生着し増大。さらに、その半数以上で肝臓や肺への転移が確認されました。

 このマウスのがん細胞を解析すると、単一のがん細胞よりがん細胞集団の方が、転移しやすいことがわかりました。また、上皮系および上皮/間葉系の性質を示すがん細胞は、大腸がん患者さんの腫瘍、マウスで増大した患者さん由来の異種移植片、血管内循環のがん細胞集団から検出され、これらの上皮/間葉系がん細胞は、肝転移巣の増大とともに徐々に減少することもわかりました。これらのことから、上皮系および上皮/間葉系の性質が、がん細胞集団の転移形成に必須であり、大腸がん細胞集団に存在するがん細胞は、上皮系および上皮/間葉系の性質を介して転移形成を可能にしていると考えられます。

 研究グループは今後の展開として次のように述べています。「今回、研究グループは患者大腸がんにおいて、上皮系および上皮/間葉系の性質を呈したがん細胞集団が転移を形成する新たな大腸がんの浸潤・転移メカニズムを発見しました。この発見はこれまで不明であった大腸がんの浸潤・転移過程において、上皮系および上皮/間葉系の形質が、がん細胞集団による転移コロニー形成に極めて大きな役割を果たすことを示しただけでなく、これらの形質やがん細胞集団を標的とした治療ががんの転移を抑制できる可能性を示しました。今後は、大腸がん細胞に上皮/間葉系を誘導するメカニズムの詳細を解明し、このようながん細胞集団の形成を阻害することにより、浸潤・転移を抑制する方法を明らかにしていく予定です」