がん光免疫療法、がん細胞を破壊する「光化学反応」のメカニズムが明らかに

2020/06/17

文:がん+編集部

 がん光免疫療法の光化学反応の過程が解明されました。近赤外線が届きにくい深部にあるがんに対しても適用になる可能性がある研究成果です。

深部にあるがんに対しても、がん光免疫療法が適用になる可能性

 北海道大学は5月26日、新規のがん治療法である光免疫療法において、同療法に使われる光感受性物質「IR700」と近赤外線の光化学的反応過程を解明したことを発表しました。同大大学院理学研究院および同大創成研究機構化学反応創成研究拠点の小林正人講師、武次徹也教授らと同大大学院薬学研究院の高倉栄男講師、小川美香子教授らと共同研究によるものです。

 光免疫療法は、がん細胞に発現している特定のタンパク質と結合する抗体に、あらかじめ近赤外線と化学反応を起こす光感受性物質IR700を付加した薬剤を静脈注射します。その後、照射された近赤外線とIR700が化学反応を起こすことで、抗体と結合したがん細胞のみを破壊する治療法です。

 しかし、近赤外線とIR700がどのような化学反応を起こしがん細胞を破壊しているか、また、化学反応を起こすスイッチは近赤外線でなくてはいけないのかは解明されていませんでした。

 研究グループは、コンピューターシミュレーションによりIR700を簡略化したモデルを使い、光化学的反応のメカニズムを明らかにしました。さらにIR700分子を使ったいくつかの実験を行い、このシミュレーションが正しいことを証明しました。今回の研究結果から、近赤外線以外の方法でもIR700にラジカルアニオンという状態を起こすことができれば、治療が可能であることも示唆されました。

 研究グループは、今後への期待として次のように述べています。

 「光免疫療法は、がん細胞を選択的に殺傷できる画期的な治療法ですが、がん細胞に結合させたIR700に近赤外線を照射することでがんの破壊が開始されるため、近赤外線が届きにくい生体深部のがんに適用するためには、光ファイバーを患部に埋め込むといった侵襲的な処置が必要であり、また、適用できる部位も限定的です。本研究で見出したメカニズムから、ラジカルアニオン状態を生成する別の化学的方法を用いることで、近赤外線を届けることなく光免疫療法を用いたがん治療が行える可能性が高く、治療の適用範囲を飛躍的に拡大することが期待されます」