子宮頸がん増殖抑制が期待される、iPS細胞由来の「HPV特異的キラーT細胞」の作製に成功

2020/09/07

文:がん+編集部

 iPS細胞から、子宮頸がんの増殖を抑える「HPV特異的キラーT細胞」の作製に成功しました。

モデルマウスで効果を確認、難治性子宮頸がんの新規治療法となる可能性

 順天堂大学は7月10日、子宮頸がんの腫瘍増殖抑制効果が期待されるiPS細胞由来の「ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的キラーT細胞」の作製に成功したことを発表しました。同大大学院医学研究科血液内科学の安藤美樹准教授、安藤純先任准教授、小松則夫教授、産婦人科学講座の増田彩子助教、寺尾泰久教授、ときわバイオ株式会社取締役の中西真人先生、東京大学医科学研究所幹細胞治療部門の中内啓光特任教授らの共同研究グループによるものです。

 キラーT細胞は、免疫細胞であるTリンパ球の中でも、ウイルス抗原や腫瘍抗原を認識し、異常細胞を攻撃するはたらきがあります。患者さんのウイルス特異的細胞傷害性T細胞を体外で増幅し、再び患者体内に戻す「免疫T細胞療法」は、重症ウイルス感染症やウイルス関連腫瘍に有効です。

 研究グループは、子宮頸がん患者さんの血液からHPV特異的なキラーT細胞を作製しようとしましたがかなわず、健常人の血液を用いることで、HPV特異的なキラーT細胞を作製しました。次にHPV抗原特異的キラーT細胞からiPS細胞の作製を試みましたが、従来の方法では作製できなかったことから、新たな方法を試したところ、iPS細胞由来のHPV特異的キラーT細胞の作製に成功しました。

 このiPS細胞由来HPV抗原特異的キラーT細胞が生体内でどれぐらいの抗腫瘍効果を発揮するか調べるため、モデルマウスを使った実験を行いました。投与3週間後の腫瘍の量の測定した結果、iPS細胞由来HPV抗原特異的キラーT細胞で治療したマウスでは有意な腫瘍抑制効果を認めました。さらに、iPS細胞由来HPV抗原特異的キラーT細胞マウスは、末梢血由来HPV抗原特異的キラーT細胞マウスよりも、有意な生存期間延長効果が認められました。

 マウスによる動物実験の段階ですが、iPS細胞由来のHPV抗原特異的キラーT細胞は、子宮頸がんの増殖を強力に抑制し、末梢血由来HPV抗原特異的キラーT細胞と比較して有意な生存期間延長効果を示すことがわかりました。

 研究グループは、次のように述べています。

 「今回の研究では、より安全に樹立したiPS細胞から、子宮頸がんの増殖を抑えるキラーT細胞を作製することに成功しました。日本では若い子育て世代に子宮頸がんが増えており、とても残念なことだと思います。今後、婦人科の医師の協力も得ながら、 マザーキラーである子宮頸がんを抑える有効な治療の開発を続けて多くの女性の笑顔を増やしたいと思います」