前立腺がんの新たな腫瘍マーカー・治療標的候補を発見

2021/07/02

文:がん+編集部

 前立腺がんで特異的に発現するタンパク質「4F2hc」が、がんの転移や再発にかかわることが解明されました。新たな腫瘍マーカーや治療標的となる可能性があります。

去勢抵抗性前立腺がんに対し、LAT1を標的とした臨床試験が進行中

 千葉大学は6月2日、アミノ酸を運ぶ役割を持つタンパク質(アミノ酸トランスポーター)4F2hcが、前立腺がんに特異的に発現し、転移や再発に関わることを解明したと発表しました。同大大学院医学研究院泌尿器科学 市川智彦教授らの研究グループによるものです。

 前立腺がんの主な治療法の1つとして、男性ホルモンを抑制することでがんを抑制するホルモン療法があります。しかし、ホルモン療法を行っても効果がなくなってくることがあり、これを「去勢抵抗性前立腺がん」といいます。

 研究グループは2020年に、去勢抵抗性前立腺がんの原因に関わる分子としてアミノ酸トランスポーターである4F2hcを見出しました。アミノ酸トランスポーターは、細胞が必要とするアミノ酸を取り込むために必要なタンパク質です。がん細胞では、細胞の増殖や活性化に必要なアミノ酸を取り込むため、発現量が増加することが明らかになっていました。4F2hcは、特にがん細胞に発現するアミノ酸トランスポーター「LAT1」と強固に結合する際に必須アミノ酸を多く取り込み、がん細胞の増殖シグナルをコントロールして、増殖を促進することがわかっています。

 さらなる4F2hcの研究を進めるため、研究グループは前立腺全摘標本を解析。4F2hcの発現が低い患者さんの無再発生存期間は59.5か月、高い患者さんでは43.4か月と有意に再発までの期間が短いことが明らかとなり、4F2hcの発現が前立腺がんの予後に関わることが示されました。また、4F2hcのシグナル伝達の下流にある「SKP-2」という新たな標的分子を見出、4F2hcがSKP-2を通して細胞の増殖をコントロールしていることが明らかにしました。

 今回の研究結果により、4F2hcが前立腺がんの新しい腫瘍マーカー・治療標的となる可能性が示されました。研究グループは、去勢抵抗性前立腺がん患者さんに対する「LAT1」を標的とした阻害薬の臨床試験を進めています。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究により、4F2hcが前立腺がんの新しい腫瘍マーカーならびに治療標的となる可能性が示唆されました。現在、去勢抵抗性前立腺がん患者に対するLAT1 阻害剤(JPH203)の臨床試験を大学院医学研究院泌尿器科学・薬理学と医学部附属病院臨床試験部との共同プロジェクトとして進めています。LAT1と強固に結合するタンパクの4F2hcの臨床的重要性が示されたことは、アミノ酸トランスポーターを標的とするJPH203臨床試験の意義をさらに裏付けする証拠となります。今後は、4F2hcの基礎的解析ならびに LAT1阻害剤の臨床試験を、前立腺がんのみならず、腎細胞がん、膀胱がんなど、他のがんへ応用していきます」