遺伝性乳がん・卵巣がんに対するPARP阻害薬の治療効果を決定する因子とメカニズムを解明

2021/07/06

文:がん+編集部

 遺伝性乳がん・卵巣がんの治療で使われるPARP阻害薬の治療効果を決定する因子とメカニズムが解明されました。治療効果の予測や新たな治療法の応用研究に結びつくことが期待されます。

PARP阻害薬の薬剤耐性によるがん再発メカニズムの解明につながる可能性も

 東京都立大学は6月8日、遺伝性乳がん・卵巣がんの治療で使われるPARP阻害薬の治療効果に対する新たな決定因子を解明したことを発表しました。同大学理学研究科の廣田耕志教授、京都大学大学院医学研究科の武田俊一教授、サセックス大学のカルデコット教授との共同研究によるものです。

 がん細胞は、遺伝子に傷がつくことで発生しますが、通常は修復機能が働きがん化が抑制されています。その修復機能を担うタンパク質の1つが、「PARP」と「XRCC1」です。PARPは、DNAに傷がつくとセンサーとして働き目印をつけます。その後XRCC1が修復に必要なタンパク質を動員することでDNAの修復が行われます。

 研究グループは、DNA損傷に対するPARPとXRCC1の働きについて詳細に解析。XRCC1遺伝子を欠損させた細胞では、DNA損傷薬に対し大きく細胞の生存率が低下しました。PARPを欠損させた細胞では、XRCC1欠損ほど大きな細胞生存率の低下は示しませんでしたが、XRCC1とPARPの2つを欠損させた細胞では、大幅な細胞の生存率が回復を示しました。これまで、PARPとXRCC1は一緒にDNA損傷に対し働くと考えられていました。しかし、今回の解析により、PARPが細胞内で毒性を発揮し、XRCC1がその毒性を抑えていることが明らかになりました。

 PARPは、DNA損傷を修復した後DNAから放出されますが、PARP阻害薬と結合するとPARPはDNA上に補足(トラップ)されます。これを「PARPトラップ」といい、細胞毒性があることがわかっていました。研究グループは、XRCC1欠損細胞では有毒なPARPトラップが、PARP阻害薬が投与されていない状況でも大量に蓄積されていることも発見しました。

 これらのことから、XRCC1がPARPトラップの解消の決定的因子であること、PARP阻害薬の治療効果の決定因子となることが示されました。

 研究グループは意義として、次のように述べています。

 「今回の研究では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の治療薬品として使用されているPARP阻害治療薬品が誘導するPARPトラップの解消にXRCC1が寄与することを示しました。このことから、XRCC1はPARP阻害治療薬品の治療効果の新しい決定因子であることが解明されました。この研究成果は、治療効果の予測や新規の抗がん剤開発などへの応用研究に結びつくことが期待されます。PARP阻害薬の問題は、治療開始直後に非常に有効ですが、その後にPARP阻害薬耐性のがんが再発することであります。この研究成果は、再発機構の解明に役立ちます」