スキルス胃がんの治療標的を全ゲノム解析で解明

文:がん+編集部

 スキルス胃がんの治療標的を、全ゲノム解析により解明。難治性がんに対する新たな治療法の開発が期待されます。

難治性がんに対する新たな治療法の開発に期待

 国立がん研究センターは8月17日、難治性でかつ病態解明が困難であるスキルス胃がんについて、腹膜播種による腹水細胞を用いた全ゲノム解析などにより、疾患に特徴的なゲノム異常を解明したことを発表しました。同研究センター研究所の細胞情報学分野の間野博行分野長、基盤的臨床開発研究コアセンター創薬標的・シーズ探索部門の佐々木博己研究員を中心とした研究グループと慶應義塾大学医学部病理学教室の金井弥栄教授らの共同研究によるものです。

 スキルス胃がんに対する手術はあまり行われず、また検体を入手できても線維化が強くがん細胞の含有割合が低いため、スキルス胃がんのゲノム異常や発がんメカニズムはほとんど明らかにされていませんでした。

 研究グループは、胃がんの腹膜播種からがん性腹水がある患者さんの腹水中のがん細胞を純化し、がん細胞株を樹立。スキルス胃がんの病態解明と治療標的を明らかにするため、樹立したがん細胞株に対して全ゲノム解析を含む網羅的な解析を行いました。腹水を提供した患者さんの約9割は、低分化型がん細胞、印環細胞陽性、びまん性浸潤、最初の転移巣が腹膜などの特徴を組み合わせており、いわゆるスキルス胃がんに該当すると考えられました。

 解析の結果、細胞増殖の重要な制御系である「受容体型チロシンキナーゼ-RAS-MAPK経路」の遺伝子群に高頻度にがん化変異(増幅)が認められました。高度増幅の遺伝子としてKRAS(19.4%)、FGFR2(11.2%)、MET(7.1%)、ERBB2(5.1%)、EGFR(4.1%)が認められました。さらに肺がんで認められる「EML4-ALK融合遺伝子」2例、甲状腺がんで認められる「AGK-BRAF融合遺伝子」1例を発見。これら遺伝子の増幅・融合は全体の50%におよび、スキルス胃がんの発症メカニズムに染色体の構造異常が大きな役割を果たしていることが明らかとなりました。

 さらにEML4-ALK、MET、FGFR2各遺伝子の増幅異常をもつ細胞株をマウスの腹腔に接種し、ALK阻害薬(アレクチニブ)、MET阻害薬(カプマチニブ)、FGFR2阻害剤(インフィグラチニブ)をそれぞれ経口投与した結果、腹膜播種が速やかに消失することが確認されました。

 続いて網羅的RNA解析を行ったところ、上皮間葉転換(epithelial mesenchymal transition:EMT)に重要な役割を果たす「TGF-β経路」の遺伝子群が発現上昇している「EMTグループ」と、それが認められない「non-EMTグループ」に大きく2つのグループに区別されることがわかりました。また、EMTグループでは、細胞増殖および器官のサイズを制御する「Hippo経路」の転写因子群TEAD1、WWTR1(TAZ)などが高発現していることも明らかになりました。そこでMETグループの細胞株を用いて、腹膜播種モデルのマウスを作成。TEAD1-4阻害薬を経口投与したところ、がん細胞の増殖が抑制され、さらにTEAD阻害薬とMAPK経路阻害薬を同時投与することで、さらに強い細胞死が誘導されることが確認されました。

 研究グループは今後の展望として、次のように述べています。

 「本研究成果により、スキルス胃がんの詳細なゲノム異常が明らかになりました。特に受容体型チロシンキナーゼ-RAS-MAPK経路の遺伝子の高度増幅が特徴的です。また、マウス実験で多くの分子標的薬の有効性も確認されたことから、今後は同様な患者さんのがん遺伝子パネル検査への実装や分子標的治療薬の開発への展開が期待されます。またTEAD経路の阻害が全く新しいスキルス胃がんの治療薬剤として開発される可能性があります」