飲酒による膵臓がんの発がんメカニズムの一端を解明
2022/05/24
文:がん+編集部
飲酒による膵臓がんの発がんメカニズムの一端が解明されました。お酒に弱い人も強い人も飲酒制限により、膵臓がんリスクを低下させる可能性が示唆されました。
お酒に弱い人も強い人も飲酒制限により膵臓がんリスクを低下させる可能性
愛知県がんセンターは2022年4月27日、膵臓がんの症例対照研究を行い、日本人にとっても飲酒が膵臓がんのリスク因子であることを確認し、飲酒による膵臓がんの発がんメカニズムの一端を解明したことを発表しました。同センターがん情報・対策研究分野の小栁友理子主任研究員、がん予防研究分野の松尾恵太郎分野長らの研究グループによるものです。
飲酒による重要な発がんメカニズムの一つにアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドによるDNA損傷があります。アルコールが代謝されてできるアセトアルデヒドを無害な物質に分解する酵素「ALDH2」は、日本人の約半数がALDH2遺伝子上の1つの塩基がGからAに変異しています。この変異がある人(rs671多型のAアレル保有者)は、アセトアルデヒドの分解能力が低く、一般的にお酒に弱いとされる人たちで、飲酒によるアセトアルデヒド曝露量の上昇に伴い、頭頸部や食道、胃などさまざまながんのリスクが高まることが知られています。
研究グループは、膵臓がん患者さん426人と性・年齢を適合させた非がん対象者1,456人を対象に、日本人の飲酒と膵臓がんリスクの関連を調査。その結果、特に多量飲酒者は、非飲酒者と比べて1.57倍高い膵臓がんリスクが認められました。しかし、rs671多型のAアレル保有者の飲酒による膵臓がんリスクがより高くなるかを評価したところ、アセトアルデヒド暴露量の増加は膵臓がんの発がんには関与していないことがわかりました。このことから、飲酒と膵臓がんとの関連には、酸化ストレスや飲酒による膵炎など、別の要因が考えられ、他のがんで明らかになっているアルコール由来のアセトアルデヒドによるDNA損傷ではないことが示唆されました。
そこで、rs671多型のAアレル保有者における、ALDH2が本来の働きをしないことによる発がんリスクを上昇させる効果(直接効果)と、飲酒行動を抑制し発がんリスクを低下させる効果(間接効果)の相反する2つの効果を分析したところ、有意な発がん効果と有意な保護的効果の双方が認められました。
飲酒によるアセトアルデヒド曝露量の増加が、膵臓がんの発がんリスクに関与しない可能性があるにもかかわらず、rs671多型のAアレル保有者に直接的な発がん効果が高いという結果がでたことは、アルコール由来のアセトアルデヒド以外の ALDH2が代謝する物質が膵臓がん発生に関与する可能性を示唆しており、今後そのような物質の特定が重要であると考えられます。また、rs671多型のAアレル保有者が飲酒行動の抑制によって膵臓がんの発がんに対して保護的効果を併せ持つことが明らかになったことから、rs671多型のAアレル非保有者も、飲酒を控えることで膵臓がんリスクを低下させうることが示唆されました。
研究グループは今後の展望として、次のように述べています。
「本研究の知見をもとに、膵臓がん発がんメカニズムのさらなる解明や、本邦における遺伝的背景を考慮した膵臓がんの個別化予防促進を目指します」