遺伝性の遺伝子変異、日本人女性の乳がん発症に与える影響の調査結果を発表
2022/06/17
文:がん+編集部
遺伝性の遺伝子変異が、日本人女性の乳がんの発症に与える影響の調査結果を発表。欧米の結果と異なることが明らかになり、日本人女性に合わせたガイドラインの必要性が示唆されました。
環境因子や遺伝子多型とは独立して、GPVsがあると乳がん発症のリスク上昇
愛知県がんセンターは2022年5月30日、遺伝性の遺伝子変異が日本人女性の乳がん発症に与える影響の調査結果を発表しました。同センターがん予防研究分野 春日井由美子専門員・大学院生、松尾恵太郎分野長、がん情報・対策研究分野 伊藤秀美分野長、システム解析学分野 山口類分野長、井本逸勢研究所長らの研究グループによるものです。
欧米の研究では、乳がんの5~10%は遺伝性と報告されており、がんの発症にかかわる遺伝子の遺伝性変異(GPVs)が原因と考えられています。GPVsの乳がんへの影響の大きさを示すエビデンスの多くは欧米からの研究報告で、日本人女性を対象とした大規模な症例対照研究は理化学研究所の1つだけでした。また、乳がんのリスク因子である「飲酒」「肥満」などの環境因子や遺伝子多型と同様にGPVsが乳がんに与える影響を検討する必要がありますが、一般集団に近い対象者を抽出してGPVsのリスクを評価した研究は乏しいのが現状でした。
研究グループは、日本人女性を対象に、GPVsがあると乳がんの原因となりうる9つの遺伝子について GPVsがあるかどうかを調査し、乳がんリスクとの関連について症例対照研究を実施。2001年1月~2005年12月まで実施された同がんセンターの病院疫学研究プログラムの女性参加者の中から、乳がん患者さんと、乳がん患者さんと年齢、閉経状況をマッチさせた対照者(非がん)を1:2の割合でピックアップし、最終的にデータが得られた625人の乳がん患者さんと1,133人の対照者について症例対照研究が行われました。
主な研究結果は、以下の通りです。
乳がん患者さんとGPVsの関係
・乳がん患者さんのGPVsの割合:4.0%
・GPVsがある人の年齢:40歳未満で最も割合が高く、年齢が上がるにつれ減る傾向
・GPVsがある人の乳がん発症平均年齢:48歳
・GPVsがない人の乳がん発症平均年齢:52歳
GVPsと乳がんの環境因子や遺伝子多型との関係
・GPVsがある人はない人に比べ、環境因子や遺伝子多型に関係なく乳がんリスクが12.2倍
・60歳未満でGPVsがある人はない人に比べ、乳がんリスクが確実に高い
・BRCA1とBRCA2遺伝子のうち、どちらかまたは両方にGPVsがある人だけに対象を絞っても同様の結果
遺伝子別のGPVsと乳がんリスクの関係
・BRCA1 と BRCA2 遺伝子のどちらかまたは両方にGPVsがある人は16.0倍
・BRCA1遺伝子だけでは29.6倍、BRCA2遺伝子だけでは11.0倍
・他のGPVsがあった遺伝子についてもリスクが上がる傾向
・遺伝子変異によりタンパク質の構造が変わり、機能喪失を引き起こす遺伝子変異について乳がんリスクが確実に高くなっていた
これらの結果から、すでに乳がんのリスクとなっている環境因子や、遺伝子多型とは独立してGPVsがあると乳がん発症のリスクが上昇することが示唆されました。
研究グループは今後の展望として、次のように述べています。
「日本人女性の集団を対象とした環境因子などを考慮した症例対照研究において、GPVsと乳がんリスクとの強い関連を確認することができました。世界的に参考にしているアメリカのNCCNガイドラインでは遺伝子検査の対象は50歳未満を推奨していますが、日本人女性の集団を対象とした本研究では50~59歳でも乳がんのリスクが顕著に高くなっていますので、遺伝性乳がん発症の可能性をスクリーニングするためには、日本人女性に合わせたガイドラインが必要であることが示唆されました。また、日本人女性の乳がん患者のGPVs保有率は欧米に比べ低いこともわかりましたが、日本を含む東アジアではGPVsが乳がん発症に与える影響の調査が不十分なため、さらなる研究が必要です」