HER2陽性胃がん、免疫チェックポイント阻害薬の投与歴がエンハーツの治療効果を高める可能性

2022/06/22

文:がん+編集部

 免疫チェックポイント阻害薬の投与歴があるHER2陽性の胃がん患者さんは、トラスツズマブ デルクステカン(製品名:エンハーツ)の治療効果が高まる可能性が示されました。

ハーセプチン最終投与からエンハーツ投与までの期間が効果予測因子である可能性も示唆

 関西医科大学は2022年6月2日、実際の胃がん患者さんに対する新しい抗がん剤であるトラスツズマブ デルクステカンの効果と副作用を解析した研究結果を発表しました。同大学附属病院がんセンター松本 俊彦センター助教らの研究チームによるものです。

 トラスツズマブ デルクステカンはHER2陽性胃がんの三次治療以降を対象とした第2相試験で、標準治療と比較して統計学的有意に奏効率を改善し、全生存期間の中央値も有意に延長。HER2陽性胃がんに対する三次治療以降の化学療法の標準治療となりました。しかし、臨床試験以外の実臨床で有用性を報告した研究報告はありませんでした。

 研究グループは、同大学付属病院を含む4施設からトラスツズマブ デルクステカンの投与を受けた18人の患者さんの症例を解析。全体の奏効率は41%、無増悪生存期間の中央値は3.9か月、全生存期間の中央値は6.1か月でした。前治療として免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けた患者さんでは、無増悪生存期間の中央値は6.5か月、受けていない患者さんで2.75か月と、統計学的に有意に良好であり、全生存期間の中央値は9.2か月と3.7か月で改善傾向が認められました。トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)の最終投与からトラスツズマブ デルクステカンの投与までの期間が8か月以上の患者さんでは、無増悪生存期間中央値がそれぞれ6.5か月と3.4か月、全生存期間中央値がそれぞれ9.4か月と5.7か月で、ともに有意な改善が認められました。

 また同研究では44%の患者さんで腹水が認められ、腹水がある患者さんは腹水がない患者さんと比較し無増悪生存期間中央値が2.75と6.5か月、全生存期間中央値が3.9か月と9.4か月で、腹水がある患者さんが有意に不良でした。有害事象は既に報告されている臨床試験と大きな違いは認められませんでした。

 今回の研究結果から、実臨床でHER2陽性胃がんにトラスツズマブ デルクステカンが有効であること、また、免疫チェックポイント阻害薬による前治療の有無、およびトラスツズマブを含む治療レジメンの効果やトラスツズマブの最終投与からトラスツズマブ デルクステカンの投与までの期間が、効果予測因子である可能性が示唆されました。

 研究グループは本研究の意義・将来への展望として、次のように述べています。

 「今後トラスツズマブ デルクステカンによる治療を受ける胃がん患者さんに対する治療効果や安全性を考える上で参考になるデータとして、さらなるトラスツズマブ デルクステカンの有効性と安全性を探索する研究が行われることが期待されます」